徒然草 第236段 | 古文教室オフィシャルブログ

古文教室オフィシャルブログ

面白いことと、古文とかをのせていきまーす。
漢文もね。
無料メルマガもよろしくでーす。
http://melma.com/sp/backnumber_197937/

高校教科書ガイド 古典 古文編<II部> [古典028]/文 理
¥2,052
Amazon.co.jp

丹波に出雲と云ふ所あり。大社(おおやしろ)を移して、めでたく造れり。しだの某とかやしる所なれば、秋の比、聖海上人(しょうかいしょうにん)、その他も人数多誘ひて、『いざ給へ、出雲拝みに。かいもちひ召させん』とて具しもて行きたるに、各々拝みて、ゆゆしく信(しん)起したり。

御前なる獅子・狛犬、背きて、後さまに立ちたりければ、上人、いみじく感じて、『あなめでたや。この獅子の立ち様、いとめづらし。深き故あらん』と涙ぐみて、『いかに殿原、殊勝の事は御覧じ咎めずや。無下なり』と言へば、各々怪しみて、『まことに他に異なりけり』、『都のつとに語らん』など言ふに、上人、なほゆかしがりて、おとなしく、物知りぬべき顔したる神官を呼びて、『この御社の獅子の立てられ様、定めて習ひある事に侍らん。ちと承らばや』と言はれければ、『その事に候ふ。さがなき童どもの仕りける、奇怪に候う事なり』とて、さし寄りて、据ゑ直して、往にければ、上人の感涙いたづらになりにけり。


現代語訳


丹波(京都府亀岡市千歳町)に出雲という場所がある。島根県の出雲大社が神霊を勧請して、新たな社殿を築いた。丹波の領主・志田の何とかいう男が、秋の頃に、都の聖海上人やその他大勢の人達を出雲に誘い、『どうぞいらっしゃって下さい、出雲を拝みに。かいもちをご馳走しましょう』と言った。聖海上人やその他の人たちは、丹波の領主に付いていって出雲まで行き、それぞれ礼拝して、強い信仰心を起こす事になった。

社殿の前にある獅子や狛犬は普通は向き合って置かれているものだが、出雲大社の狛犬は互いに後ろ向きで置いてあった。これを見た聖海上人は酷く感動して、『あぁ、珍しい。この獅子の立ち方はとても珍しいものだ。何か深い由縁があるのだろう』と涙ぐんだ。『皆さん、こんな珍しいものに気づかないんですか。これを見て何も思わないのであれば残念なことです』と言った。それを聞いたみんなは確かに不思議な獅子の置き方だと思い、『本当に他とは違う置き方ですね』、『都への土産話として語りましょう』などと言う。

聖海上人はその由縁を知りたいと思い、年寄りの物知りそうな神官を呼んで、『御社の獅子の立て方は、慣例の定めに従ってないですよね。ちょっとその由縁を聞かせて頂きたい』と質問したが、『その事でございますか。どうしようもない子ども達の悪戯ですよ、怪しからんことです』と答えた。そう言って、獅子の近くに寄って、正しい向き方に置き直して、立ち去ってしまったので、聖海上人の感涙は無駄になってしまった。