ひゃあ。
読書ペースも落ちています。
こりゃあいかん。
そんなだらしないわたしの目に飛び込んできた、示唆的なタイトル。
滝田愛美『ただしくないひと、桜井さん』(新潮社)
「ただしくない」という言葉にドキ、としてしまう。
ときめきの方ではなくて責められたときの冷やっとしたドキドキである。
"子どもの居場所づくり"という大義名分のもと、NPO団体が子どもたちの憩いの場として作った施設「ぽかぽかハウス」には、訳ありな子どもたちが集まっている。
親に暴力をふるってしまう小学三年生の安藤千奈美、放課後を過ごす友人が居ないと思われる中学二年生の横田太郎、はち切れんばかりの色気を纏った中学二年生の星野柚希など。
「桜井さん」は訳ありの子どもたちと接したり、勉強を教えたり、お菓子や麦茶を用意しておいたりするボランティアスタッフのひとりだ。
本業は大学生で、期末試験と就活に励むかたわら「ぽかぽかハウス」のボランティアを続けている。
「桜井さん」がどう「ただしくないひと」なのかは、本書を読んだらすぐにわかる。そして「ただしくないひと」は他にも沢山いる。
本書は「正義のみかた」「茜さすみどり」「それも愛」「聖なる、かな」の四編構成で、「桜井さん」からまわりの人物へ視点を変えていきながら「ただしくないひと」をあぶり出していく。
暴力、援助交際、自殺など、「ただしくない」テーマはかなり重いが、各編でそれぞれ謎めいた部分がリンクしていてミステリー感覚で読み進められる。
「聖なる、かな」で伏線が回収されきった時には鳥肌が立った。「ただしくない」ことの罪深さに嘆きながら本書にどっぷりとはまってしまった。
「ただしくない」ということは、分かりやすい犯罪から浮気などの倫理的なものまでさまざまある。
「訳ありの環境ゆえに「ただしくない」行為をせざるを得なかったのだろう…」と上から目線で読み進める訳にはいかなかった。
なぜなら、当たり前なことだが、どんな人間でも「ただしくない」ことを考えることがある。それを口に出したり行動にあらわさない(ように努めている)から分からないだけで、結局みんな「ただしくない」ことを内包した「ただしくないひと」なのだ。
「ただしくない」を使いすぎて混乱してきたが、要するに、わたしは「ただしくない」ことをどこまで許せるだろう、と読みながら思ったのだ。
タイトルは「ただしくないひと、桜井さん」としているけれど、物語内で桜井さんが「ただしくない」と裁かれる場面は無い。「ただしくない」ことの判断は読者に任されていて、試されているような気がした。
「ただしくない」がひらがななのも想像を掻き立てられて良い。
全体的に切ない物語集だが、読み終わってから「ゆるす!」と言いたくなった。
そんなことを読みながら思った一冊だった。
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