「あーあっ ・・・ よく寝たなぁ。ラッキー。結構寝られたなあ。 起こされなかったし、今 何時だろう?」


暗い 当直室で 目覚めた 僕は 灯りをつけて 時計を探したが どこにもなかった。


(あれっ? 腕時計どうしたっけ? 昨日 くじで 負けちゃって 当直 あたったけど 何もなくて良かったよ。 CAとの合コン 行けなかったのは 残念だったけど・・・、水 飲みたいけど 冷蔵庫もなかったっけ? あれ-? この部屋 当直室だったっけ? 見たことないな・・・。)


取り敢えず パジャマ代わりの手術着の上に 白衣を羽織って 自動販売機でお茶でも買おうと 部屋の外に出てみた。


暗い 狭い 廊下が続く。


強烈な臭い・・・。


(クレゾール? 昔の病院の臭いだなあ(笑) この廊下 ウチの病院に あったっけ?)


自販機も見当たらず トボトボ 暗い廊下を 歩いた。


(このエレベーター  昔 どこかのデパートで見たことあるような 古風な・・・ちょっと待てよ・・こんなの あったっけ?)


中が透けて見える 格子状のエレベーターの扉? 


怖々 開けて 中に入った瞬間 自動的に 動き出した エレベーター。


(ここは 何階で どの階に行くんだ? 行き先を示すパネルも ボタンも 何もないや。 ちょっと 待てよ・・・、僕は 昨日 当直だった・・・どこの病院だっけ? あれ? なんか 思い出せないな。)


エレベーターが 止まって 何階か分からないけど 降りてみた。


暗い廊下の向こうに 明るい部屋が。


(詰め所だ。 とにかく 入ってみよう。)


モニターも何もない 詰め所?


女性看護師が 二人 こちらを向いて


「田中先生。 どうしたんですか? 今日は落ちついてますよ。 ああ38号室の 田中君?
反応も 意識もないですが 特別 変わりないみたいですよ、さっき 検温に行ってきましたけど。」


(僕、田中って名字? そう言えば 名前は? 思い出せない。この二人の 看護師も 見たことないなぁ。 それに 田中君って 患者 誰?) 


「先生? どうしたんですか? 寝ボケているんですか? 何かあれば 呼びに行きますから もう少し寝られたら?」


煮沸消毒? 看護師さんが ガラスのシリンジ注射器を 金属製のケースらしきものに 入れて 煮沸消毒器に 並べている。 


クレゾールの臭い? 白い手洗い用の洗面器?


僕は 誰?  ココは どこ?


引き寄せられるように 38号室 田中君の所へ 駆けだした。


38号室に 酸素マスクを装着して 静かに 寝ているのは 小学生?


顔が よく見えない。


(小2か 小3? 誰? )


部屋に入ったら 壁に その子が書いたらしい 作文やら 絵が たくさん貼ってあった。


飛行機の絵。 医者らしき絵。 街の絵。 お母さん お父さん。


作文を読んでみた。


「みらいの ゆめ」


ぼくは いつか おいしゃさんになって せかいじゅうの びょうきでこまっている こどもたち と おとなを なおしてあげたいです。

だから にゅういんしますが きっと よくなって べんきょう がんばって おいしゃさんに なります。

かみさま そして びょういんの せんせい、ぼくを ぜったいに たすけてください、おねがいします、おとうさん おかあさん ありがとう。




静かに眠っている 子供の顔を もう一度よく見て 思い出した。


そこに眠っているのは 僕だ。 間違いない。 涙で 周りがよく見えない。


「安心して 僕は ちゃんと 医者になったよ。 助けに来たよ。 ゴメンね、長いこと待たせて。」


今 長いこと 忘れていたことを 思い出した。


何故 医者になったのか。何を 目指していたのか。


そして もう一つ もっと大事なことを 思い出した。


僕は もう・・・・。


そして 永遠の闇。