ボストンコンサルティンググループ 『クラウゼヴィッツの戦略思考』
- ティーハ・フォン ギーツィー, クリストファー バスフォード, ボルコ・フォン アーティンガー, Tiha Von Ghyczy, Christopher Bassford, Bolko von Oetinger, ボストンコンサルティンググループ, BCG=
- クラウゼヴィッツの戦略思考―『戦争論』に学ぶリーダーシップと決断の本質
『クラウゼヴィッツの戦略思考』は、経営コンサルティング会社のボストン・コンサルティング・グループが、難解な戦争哲学書として知られる『戦争論』のエッセンスを紹介した本である。
序文に曰く――本書は原文を四分の一に要約したうえ、わかりやすく、論理的な順序に再構成して、読者の方々にクラウゼヴィッツの知見を容易にご理解いただけるようにしたものである。
つまり、現在のビジネス環境にも通用する戦略論、組織論、リーダーシップ論の古典的存在として、『戦争論』の価値をを捉え直し、特に著者であるクラウゼヴィッツの戦争全般を考える上での思考方式に着目している。
再び序文に戻って――日本の読者のみなさんに『戦争論』を読んでいただきたいのは、次の三つの理由からである。
まず、海外から見ると、クラウゼヴィッツが『戦争論』を執筆した時代と、現代の日本のビジネス環境とは、既存の競争秩序が大きく変わる変革期という点で大きな共通点がある。
クラウゼヴィッツによれば、激動、変革の時代には、リーダーは短絡的に早期解決策を探るのではなく、「戦争か平和か」「攻撃か防御か」など、相反する二つの視点を持って弁証法的に熟考する必要がある。論理的に正反対な関係にある二つの視点から考えていくことは、現代でも大変有益である。
最後に、クラウゼヴィッツの視点と、現代日本人との視点との共通性も見逃せない。『戦争論』は敗者から見た自己変革の書である。
現在のビジネスシーンに氾濫している言葉に「戦略思考」なるものがある。
大抵の場合、何となく知的な響きがあるからという理由くらいで使っているのに過ぎないのであろうが、「戦略思考」の本来的な意味や、有効に活用するための方法論を知りたいと欲するのならば、その言葉の元祖、クラウゼヴィッツに学ぶに如かず、というわけである。
個人的な感想としては、戦争につきものの摩擦の概念と、それによって生じる不確実性と偶然性の要素を考慮しない戦略策定は致命的であるというのが、興味深かった。
たしかに計画通りにいくことなど、滅多にないのだから。
こうした不確実性や偶然によって、戦争における作戦計画や行動が大きく左右されてしまうことへの耐性を持った者だけが、真のリーダーシップを発揮できるのだ、という指摘も最もなことであると思う。
最後にまた序文から――クラウゼヴィッツの『戦争論』は、激動の時代の優秀なリーダーに求められる「思考の力」を深く洞察した書物である。クラウゼヴィッツ的な考え方は将来に対する可能性の幅を大きく広げてくれるのである。
というわけで、なかなかの好著ではあるのだが、読み通すには、結構、骨が折れる。
切れ味: 良
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