ビザ取得や更新が比較的容易とされてきたシンガポール。そこへ規制強化の流れが。


メリットの多いPR

前回のブログで照会したが、シンガポールの合法滞在の一つに「(期限付き)永住権」というものがある。これを英語ではPermanent Residentと表すため、通称「PR」と呼ばれている。


PRには非常に多くの利点があり、毎年多数の外国人がPR申請をしている。以下に利点を例示する(JANUS Corporate Solutions, 2010)。

外資系銀行員、シンガポール生活の記録

G7メンバー国の日本にとって、シンガポールのPRは大して魅力的に映らないが、1~4は金銭的メリットが大きい。シンガポールPRのA氏を例にすると、給料のうち400ドルを毎月自分の年金口座に振り込むと仮定した場合、雇用主からも290ドルが毎月A氏の年金口座に拠出される。しかも、A氏にとって年間拠出額の4800ドル(=400×12)は税額控除されるので、その4800ドルには税金がかからない。つまり、CPFの開設は2重に「おいしい」制度と言える。


帰化を強制する政府

メリットの多いPRであるが、その有効期限は5年間となっている。そのため、PR保持者はPRの延長申請を定期的に行う必要がある。実は、そこに大きな「落とし穴」が潜んでいた。


総人口を600万人にまで増やす計画を立てているシンガポール政府にとって、帰国してしまうかもしれないEmployment PassやPRの保持者よりは、シンガポール国民への帰化する数を増やそうとしている。そのため、シンガポール政府はPRの延長申請をした者の中から条件にあった人へ帰化申請の「推奨」を行おうと考えている(Channel NewsAsia, 6 Sep 2010)。


しかし、一部報道では「帰化申請の推奨を断った場合、PRの延長申請を却下する」というインタビューが紹介されており(Straits Times, 9 Sep 2010)、帰化推奨は殆ど強制である。本来であれば個人の自由意思で「帰化」申請をするはずが、帰化を事実上強制するのはいかにも「中華系国家」らしい発想だ。


推奨という名の赤紙。最悪の場合、財産の没収の可能性も。

実態は分からない。しかし、帰化推奨を断ることで下される「PR剥奪」は非常に経済的ダメージが大きい。


「PRのメリット」としてHDBの購入・所有権の付与ならびに年金口座(CPF)の保有許可があるとした。これを深読みすると、「PRが剥奪された人」にはHDBの所有ならびに年金口座の保有が消滅と該当資産の没収が実施されるかも知れない。これはG7各国では最も基本的な権利の一つである財産権の侵害に他ならず、「帰化推奨」は事実上の「赤紙」と考えるのが適切だろう。



経済発展を最重要課題とする国家の前に「個人の自由」は必ずしも尊重されるものではない。PR保持によってもたらされる目先の便益に踊らされず、リスクを慎重に吟味した上でPR申請すべきである。



JANUS Corporate Solutions (2010): http://www.guidemesingapore.com/permanent-residence/singapore-pr-pros-and-cons.htm

CPF Board (2010): http://mycpf.cpf.gov.sg/CPF/News/News-Release/N_20Sept2010.htm

Channel NewsAsia (6 Sep 2010): http://www.channelnewsasia.com/stories/singaporelocalnews/view/1079513/1/.html

Straits Times (9 Sep 2010): http://www.straitstimes.com/BreakingNews/Singapore/Story/STIStory_576523.html