初心
ぼくをいつも初心にかえらせてくれるのは、
床屋です。
だから、その床屋さん以外では
髪を切らないようにしています。
もう15年くらいの行きつけになります。
今日、いつものマスターに切ってもらいながら
(ぼくの髪を切ってくれるのは
必ずそのマスターと決まっています)
「なんだか頭がどんどん真っ白になっていきますね~」
と言ったら(白髪が増えてますね~という意味で)
マスターはいつものようにほほ笑みながら
「みんなそうだから。ひとりじゃない」
そして、こう続けました。
「日々新しく生まれ変わるんだから」
そのマスターは、ぼくよりもかなり年上ですが、
同じ北東北の出身です。
若い頃、東京でひと旗あげようと、
十和田から、たった7千円をにぎりしめて、
おむすび8個を持って、
本当にそれだけで、夜行に乗って来たそうです。
たくさんの不安でいっぱいで、
でも、ひとすじの希望を持って。
だから、ぼくはそんなマスターに髪を切ってもらうだけで、
初心にかえれるような、
それだけで生まれ変われるような気がするのです。
「あのさぁ、馬のヤツで、ボックスってゆうのは
全部あたらないとダメなの?」
と聞かれたので、
「それは、全部あたらないとダメです」
と言いました。
「2コあたったんだけどね~。
3コあたらないとダメなんだ? あ、そう」
店員さんがみんな、
「そりゃダメだよ~~~」と言って笑います。
お客さんも笑います。
いつもそんな調子で、いつもみんなが笑っています。
本当にビルの谷間の床屋さんなのですが、
ここへ来ると、いつも、
青空が見えるような気がするのです。