トップシーン、遠方から歩いてくるお竜さん。
奥から手前へ近づいてくる。
すると突然、子犬が横切る。
同時に、何かに気がついたかのようにハッと動き出すお竜さん。
奥行のある画面に、横の動きが入ってきてすばらしい。
子犬を追いかけてきたのだろうか、杖を頼りに歩いてくる少女。
下駄の赤い鼻緒、そして衣装の赤、この二つの赤が効いている。
子犬の気配が消えてしまったためなのか、その少女がいきなり向きをこちらに変える。
うしろからは、掛け寄ってくるお竜さんの姿が少女に重なってかすかに。
だからこそ、観ている者が緊迫してくる。
少女の全身がここでわかる、盲目だ。
ますます緊迫が高まってくる。
母親が映る、慌てている。
一瞬、眼を離したスキに(しまったっ!)。
少女の歩く姿を見て、驚愕する母親、なぜなら。
蒸気機関車が少女に向かって突進してくるのだ。
機関車の真下からのショット。
噴煙を上げ、爆進する蒸気機関車。
背後から少女に駆け寄るお竜さん。
蒸気機関車の遮蔽板のショットが入り、観客の緊張感がなお一層、高められる。
叫ぶ母親。
もうだめだと、思わず眼をおおう母親。
飛び退いたお竜さん。
汽車が過ぎ去る横で、呆然とする母親。
轟音とともに汽車は走り去った。
線路脇には、少女を抱きかかえて飛び降りたお竜さんの姿が。
その二人の姿を認めて、いそいで駆けつけてくる母親。
母親に抱きつく証書、少女に抱きつく母親。
去りゆくお竜さんへ、心からのお辞儀をする母親。
母親の顔をみて、自分も一安堵するお竜さん、
ここまでで約3分。
そしてタイトル。
名古屋の象徴、金のシャチホコ。
この映画は名古屋が舞台か?
続いて、屋敷内のれんの向こうで仁義をかわすお竜さんの姿。
のれんがゆれるたびにお竜さんの姿が見え隠れ。
切り替わって、屋敷の外からお竜さんが仁義をきる姿、
ここは西之丸組らしい。
西之丸組の配下の者(山本麟一)がお竜さんの仁義を受ける。
その視線はお竜さんを見て微動だにしない。
奥では頭(かしら:嵐寛寿郎)が店先でのやりとりに耳をそばだてている。
もはや、何をいう必要もないほどに貫禄である。
圧倒的な存在感。
ようやくここでお竜さんが仁義をきる正面ショット、その姿は美しいのひとこと。
斜に構えた全体、視線の切り方、かがんだ角度、右手の出し方、腿に置いた左手、
一寸の身動ぎもする必要のない完璧なたたずまい。
頭の周囲にいるのは、どうも顔つきのよくない連中。
頭はやや思案顔。
お竜さんのアップが入る、やはり視線を微動もさせない。
ここまでで約5分。
誠にすばらしい一連の冒頭シーン。
ここまでだけで、この映画への期待感が膨れ上がる。
次回は中盤の名シーンをご紹介したいと思います。