所有者が死亡し、相続人が不存在となった場合の不動産競売 | じじい司法書士のブログ(もんさのブログ改め)

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法律事務所の中で司法書士・行政書士を個人開業しています。50近くになって士業としての活動をはじめました。法律事務所事務員と裁判所書記官としての経験を生かして、少しずつ進歩していければと思っております。

昨日に引き続き、不動産競売の話です。昨日の事案において、相続人不存在となった場合について検討したいと思います。

土地A所有、建物B所有(BはAの父)

Bが死亡し、Aを含む第1順位相続人は全員相続放棄、第2順位相続人(直系尊属)はいない。第3順位相続人Bの兄弟姉妹、その代襲者へ債権者代位で相続登記済み。担保不動産競売開始決定がなされ、担保不動産競売開始決定正本を受け取った人はびっくりして、各人が相続放棄をする。そして、相続人はいなくなった……というケースで考えてみます。

昨日も書きましたが、代位で行った相続登記は間違っていたことにはなりますが、競売手続は原則進行させることができます。





相続人が不存在(又は不分明)の場合には、当事者たる所有者は相続財産法人(民法951条)になります。ですから、まず、家庭裁判所において相続財産管理人を選任してもらうことが必要になります(民法952条1項)。(根)抵当権者は利害関係人にあたりますから、相続財産管理人選任の申立資格があります。申立てをすれば、選任はされるでしょう。

問題は、相続財産管理人の報酬です。不動産があるとはいっても担保割れしているでしょうから、剰余が生ずる余地はありません。また、相続人が全員相続放棄するような状態ですから、他に換価できるような相続財産があることは見込めません。そのような場合、相続財産管理人を選任したはいいが、報酬が担保されないこととなってしまいます。そこで、家庭裁判所の実務においては、申立人に報酬担保のための報酬最低額相当の予納金を納付させています(東京家庭裁判所では弁護士を相続財産管理人に選任することから、予納金は100万円です。)。仮に、換価可能な財産が発見されれば、換価した相続財産から報酬を受けることとなりますし、管理・清算の手続きが終了してもそのような財産が残らなかった場合には予納金から報酬の支払いを受けることとなります。





ということは、申立債権者は担保割れの不動産の競売を進行させるために(東京家裁への申立てであれば100万円の)予納金を納付したうえで、競売手続を進行させるための相続財産管理人選任をしなければならないことになります。それだけの費用をかけることが見合うこともあるでしょうが、とても見合わない事案も多いでしょう。





そこで、考えられるのが、特別代理人の選任です。相続財産管理人選任をしているような時間的余裕がない場合には、民事執行法20条で準用する民事訴訟法35条に基づき特別代理人の選任が認められることがあります〔大決昭和6年12月9日民集10巻1197頁〕。おそらく、本件で検討しているような、担保不動産競売開始決定、差押登記後に相続人不存在となったような事案においては、特別代理人の選任で手続を進行させることが認められる可能性は高いと思います。特別代理人報酬は5万円+消費税であることが多く、報酬や選任費用は共益費用として売却代金から償還を受けることができます。





では、本件とは異なり、競売申立前に、相続人不存在となっている場合はどうでしょうか。原則は相続財産管理人を選任することとなります。相続財産管理人が選任されれば、通常は、相続財産管理人が自ら表示変更の登記を行います。仮に、相続財産管理人が表示変更の登記をしなかった場合でも、競売申立債権者は相続人が相続登記をしない場合と同様に債権者代位で表示変更登記を行うことが可能です。





しかし、この場合にも、特別代理人の選任が認められないか……という問題があります。相続人が積極的に相続放棄をする事案というのは相続財産が不動産だけで、なおかつ、大きく担保割れしていることが多いと思います。このような事案についてまで、申立債権者が相続財産管理人選任を申し立てなければならないとすれば、競売費用とは全く別に、相続財産管理人の報酬担保のための予納金の支出を覚悟しなければなりません。

今までは、特別代理人選任で手続を進めた場合の表示変更登記が問題でした。特別代理人はあくまで競売手続における代理人としての立場でしかないので、自らが相続財産名義への表示変更登記をなし得ないからです。登記研究718号203頁の質疑応答7860で「相続人が不分明の不動産について、相続財産管理人を選任することなく、当該不動産の被相続人の債権者が、競売申立受理証明を代位原因を証明する情報として、当該不動産の登記名義人の表示を相続財産法人に変更する代位の登記の申請の可否について」「申請することができると考えます」と回答しています。

裁判所も法務局も、特別代理人選任で手続を進めることが可能と一応は考えているようですが、実務においては、事前に裁判所・法務局とご相談のうえ、手続を進められることをお勧めします。






改訂-所有者が死亡し、相続人が不存在となった場合の不動産競売