移植手術について詳しく書く前に、ここで、角膜移植が必要となる病態についてまとめておこうと思う。

1、角膜白斑
 
私のように、細菌感染・ウイルス感染による角膜炎で角膜に白濁が残った状態。白濁が実質の浅いところで収まっていれば、レーザーで焼き切る治療方も適用される場合があるが、多くの場合で視力を回復させるためには角膜移植が必要になる。

2、円錐角膜

球面上になっている角膜表面が、何らかの原因によって尖り、円錐状になる。軽いうちはハードコンタクトレンズで視力矯正ができるが、進行するとどんどん円錐状になった角膜が薄くなり、最悪の場合角膜が破れる恐れがあるので、病態が進行した場合は角膜移植が検討される。

3、水泡性角膜症

5層構造になっている角膜の、水分調節を司る内皮細胞(出生時約2000)が傷害され、一定数を下回り(およそ500)、ポンプ機能を失い、角膜がむくみ白濁する。一昔前の切開創が大きめの水晶体置換術の手術を受けたお年寄りに多い。

4、角膜ヘルペス

主治医が心配した病態がこれである。水疱瘡を起こすヘルペスウイルスが角膜に発症したもので、ウイルスによって角膜が冒され、白濁する。現在はアシクロビルという特効薬があるので正しい診断・治療が行われれば、視力を回復できる。ただし、診断が遅れ、治療開始が遅れた場合は角膜表面に瘢痕・白濁が残る。移植手術によるストレスで再発する恐れがあるので、術後管理に注意が必要である。

5、アカントアメーバ角膜炎

感染性の角膜炎で、一番厄介な病態である。使い捨てタイプではないソフトコンタクトレンズ使用者で、ごくまれに起こる。ソフトレンズの煮沸消毒を怠り、レンズ内にアカントアメーバが入り込み、角膜についた小さなキズから角膜内に侵入することで発症する。発症した場合、特効薬はなく、感染した部分を削る治療などが行われる。それでも良くならない場合、角膜移植が検討される。

6、スティーブンス・ジョンソン症候群

服薬に対する劇症アレルギーの一種で、全身の皮膚・粘膜がただれ、診断・治療開始が遅れた場合は最悪死に至ることもある、恐ろしいアレルギーである。一命を取り留めた後、後遺症として視力障害が残ることがあり、角膜移植が検討される。

7、化学熱傷

化学薬品が目に入り、角膜・強膜(白目の部分)に薬品による熱傷(ヤケド)を起こし、視力障害が残る。角膜移植が検討される。

この他にも、事故などで目の表面に大怪我をした場合などにも角膜移植は検討される。

私が移植手術を受けた約10年前は角膜移植といえば、全層角膜移植が最も多くおこなわれている術式だったが、この10年ちょっとの間に医学の進歩・発展により、上に紹介した病態で、全層角膜移植以外の部分移植などもよく行われるようになっている。

明日は、角膜移植のいろいろな術式についてまとめてみよう、と思う。