我が母校の偉大なるセンパイにエールを送る | No Blog

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<生き埋め殺害>元大学生、2審も無期懲役 大阪高裁判決

 東大阪大学の学生ら2人を06年6月、岡山市内で生き埋めにしたとして殺人罪などに問われた元大阪府立大生の広畑智規被告(24)の控訴審判決が26日、大阪高裁であった。裁判長は「2人の殺害に積極的に賛同した」として、求刑通り無期懲役とした1審・大阪地裁判決を支持し、被告側の控訴を棄却した。


 このニュースの広畑智規っていうのは俺の通っていた高校の一つ上の人間である。そして、今思い出しても滑稽な人間だった。

 今回の事件では犯行発覚の際、彼の名前はすぐには上がらなかった。当時、九人の犯人うちの五人がまずパクられたが、残りの四人は大学生だったため「あつらには将来がある」ということで、黙っていたらしい。まあ、何の将来かは知らんがね。

 この広畑はここにも書いてあるが、計画を担当し、直接手は下さなかったらしい。その辺が彼の狡賢いところだね。というより、単にビビってたんとちゃう?()

 ほんのわずかだが、俺は、個人的にこの男と絡みがあった。俺が通っていた高校は進学校で、大学進学率も90%。俺のような勉強のできない人間を除けば、大概が頭の良い人が通う、そして”まともな不良”なんているはずもない真面目な学校だった。

 奴が勉強できていたかは知らないが、とりあえず中途半端だった。進学校で周りにワルがほとんどいないからか、妙に悪ぶっていた。

 彼とのファーストコンタクトは、高一が終わりかけのある午後。その日は、春休みの補習かなにかで、授業は午前中のみだった。昼飯を買いに行った高校の目の前にあるセブンイレブンでマイミクのBeerlaoと店先でだべっていた。

 広畑が通りかかった。どぎついパーマで、チン毛でできたカリフラワーのような頭。肩をいからせながら、いかにも「僕、ヤンキーやってます」みたいな風体でノッソノッソと歩いていた。

 ちょくちょく見かける輩だから、興味がてら観察していた。奴が買い物を終え、店から出てくるとき、俺の真横を通った。目線はつねに周りを威嚇するような感じでね。

 当然馬鹿な俺は、道もあけないし(その必要もない)、その目を見ちゃうわけ。この時点では俺は睨んだわけではない。ただ見ただけ。無論自覚での話だが。

 何事もなく通り過ぎたように見えたのだが、後ろを振り返ってみると……こっちをすんごい睨んでました。まるで穴が開けるように。立ち止まって、小刻みに頭を何度も上下させ、「ああん?」みたいな感じね。古いヤクザ映画でチンピラと言えばまだ伝わりやすいだろうか。


 しばらくこちらを見てくるから、俺もその目を見続けた。すると、またノッソノッソと歩き出す広畑。こちらに向かってくる。

広畑「なあ、おまえ一年じゃろ?」

俺「そうだよ」

広畑「あ?なんなん?”そうです”じゃろうが。カバチあるんなら、いつでも言ってけえよぉ」 どこかで練習したかのように、とても鋭い巻き舌。

俺「そっすね。わかりました。センパイ」 快活に応える。

 何に満足したのか(本当に)わからないが、彼は仲間たちを連れて去ってゆく。

 その後のBeerlaoとの会話。

俺「カバチって何かな?」

「いやー、わからんわ」

俺「文句とかって意味かな?」

「まあ、どうでもえかろー、どうせ変なヤンキー言葉じゃないの」

 俺らの中ではしばらく、広畑のことを『カバチ男』と呼んでた() その後、漫画かなにかでカバチの意味を知った。それから確か新学期が始まって、ある日の昼休み。食堂に食券を買うために並んでいた。キーンコーン。チャイムが鳴り始め、ほとんどの生徒が戻り始めるが、俺はせっかくだからと我慢強く待っていた。

 そこに、広畑登場。無論、”フリョウ”の彼は並びません。”フリョウ”のファストパスを用いて、一番前の人を差し置いて食券を買い始める。あいにく、俺は三番目。

「いやー、順番も待てないアホは困るよね」 独り言のように、もちろん聞こえるように俺は言う。だいたい反射的にこういうこと言います。だから、人生でだいたい損します。

「なあ?おめえが言ったん?」

「聞こえましたか。これは失礼しました。まあでも、文句あるなら言えって仰いましたよね?」 鼻で笑う。これも俺の悪い癖。

「はぁん?」たぶん、俺のことは覚えていなかったようだ。「ちょっとツラ貸せぇや。なあ。おめえやる気なん?」

「センパイひとりでっていうなら、僕も呑みますよ」

 俺は食券をあきらめ、下について行く。しかし、ちょうど運悪く、春まで俺の担任だったH山先生が通りかかる。「おい、広畑、ノブトウ、お前ら授業始まっとろうが。はよ戻れ」

 怒られる。もちろん俺も従うし、広畑も素直に従う()

 その放課後。一体あの短時間でどうやって俺を探したのか知らないが、俺の教室の前にラグビー部の猿っぽい人と二人で待っていた。

 そこでの会話ははっきり覚えていないが、特に言い合いになったわけでもなく、脅しを掛けられたわけではなかった。たしか、地元がどこか?と聞かれて、素直に答えた気がする。

 結局、何事もなく二人は帰っていった。俺は少し興奮しながら「先に謝った風にして安心させ、後ろから石で殴るか」「ナイフで脅すか」「朝一にトンファーを背中に忍ばせて、待ち伏せ攻撃するか」

 まあ大概、僕は喧嘩に関しては、卑怯です。ルールがないんだったら、何でもやります。金属バットも使ったし、立体駐車場からコンクリート片を相手の車に落としたりとか。武器ももちろん、油断させるためなら平気で頭も下げることができる。だから、無論、負けたことがない。

 そんなことに想いを馳せながら、次はいつ来るかと待ちわびていたが、二度と対峙する機会はなかった。 ちなみに、後から聞いた話だが、彼はとても喧嘩が弱かったらしい。まあ、あんなホッソイ軽い体で、オツムも軽いだろうからね。

 その夕方、俺は部活を終えて帰ろうとチャリンコ置き場に向かった。なんと……タイヤの空気抜かれていた。ほんまに小学生かと思ったね。まあ新学校のフリョウなんてこんなもんかなと、改めてベンキョウした。

 さすがに、空気抜かれたくらいで闇討ちしたら、まずいかなと思って、彼の低い土俵に合わせて、俺もチャリンコに細工をした。何より証拠がないわけだから、言っても白をきられたら終わってしまう。たぶん、向こうはそれを狙っていたのかな?

 二日後、俺は、わざわざ広畑のチャリンコを探し出して、チャリのブレーキホースを切って、タイヤにノコギリカッターで裂き(ナイフでは裂けなかった)その割れ目にバタフライナイフを差し込んでおいた。

 結局、それでおしまい。向こうも何もしてこなかった。奴とはその後は一度も関わることなかった。



 二年半くらい前に新聞で読んでビックリしたが、まあ奴なら外から安全な位置でそういうこともしそうだなと思ったね。刑法の入門テキストで『共謀共同正犯』が説明されてたら、だいたいこんな卑怯な人間の例が載ってますね。

 無期懲役は結構幅があるけど、真面目に務め上げても、40歳くらいになるだろう。我が母校の偉大なるセンパイのムショ生活にエールを送ります。

【終わり】