ソングライター、アレンジャーとしての福山雅治さんの音楽の多様性と趣味性の濃さが評価されていて、ましゃファンの一人として実に嬉しい限りです。ニコニコ
6月26日配信、リアルサウンドより1部抜粋。
藤原さくら『Soup』に感じる、福山雅治の“趣味性”の濃さ
アメリカ南部へアプローチした作品に

2016年6月27日付の週間CDシングルランキングでは、BTOB、Block Bと、K-POPのアーティストが1位と2位を占めました。さらに、8位のAARONは台湾のアーティスト。グローバルなベスト10です。

そんなベスト10を、今週も1位から10位まで全部聴いた結果、もっとも耳に残ったのは、4位の藤原さくらの『Soup』でした。バンジョーやフィドルの響くカントリーが、日本のチャートの上位にいることに驚いたのです。しかも、よく見ると2週連続の4位でした。

藤原さくらの「Soup」が、彼女も出演していたフジテレビ系ドラマ『ラヴソング』の主題歌であったことや、そこで主演していた事務所の先輩・福山雅治が作詞作曲していることは後から知りました。カップリングの「好きよ 好きよ 好きよ」も福山雅治の作詞作曲であることや、やはりカップリングの「Summertime(佐野さくら with 神代広平 Ver.)」や「500マイル(佐野さくら with 神代広平 Ver.)」の「神代広平」とはドラマ中の福山雅治の役名であることも、やはり後から知った次第です。

こう書いてみると、事務所の先輩が後輩を全面的にバックアップしているだけのシングルなのでは……と思われそうですが、CD1枚を聴いてみて印象に残ったのは、むしろソングライター、アレンジャーとしての福山雅治の趣味性の濃さでした。

タイトル曲の「Soup」を聴いて驚くのは、先述したようなフィドルやバンジョーの響きに加えて、藤原さくらの声の低音を使った歌、そして演奏全体から感じられるアーシーな感覚です。「ちょっとカントリーに手を出してみました」という雰囲気ではなく、ちゃんとアメリカ南部の音楽を通過してきたミュージシャンによる演奏であることを感じさせるのです。

そこでクレジットに目を通すと、編曲を福山雅治とともに手掛けているのは井上鑑。彼の長いキャリアを一言でまとめるのは難しいですが、日本のポップス史に太字で残るのは大瀧詠一との仕事でしょう。そして、演奏にはピアノで井上鑑が参加しているほか、ベースに高水健司、ドラムに山木秀夫と、ベテランが顔を揃えています。そして、井上鑑、高水健司、山木秀夫は福山雅治バンドのメンバーでもあります。このメンツを見て、20歳の藤原さくらのヴォーカルに、どこか背伸びをしているかのような印象を受けた理由がわかった気がしました。

カップリングの「好きよ 好きよ 好きよ」も、編曲は福山雅治と井上鑑。こちらでもフィドルとバンジョーが奏でられているほか、井上鑑、高水健司、山木秀夫も参加。贅沢なカントリー・バラードです。

カップリングの残り2曲はカヴァー曲。「Summertime(佐野さくら with 神代広平 Ver.)」は、ジョージ・ガーシュウィンが作曲した、あまりにも有名なジャズのスタンダード・ナンバーです。無数のヴァージョンが存在しています。福山雅治の編曲により、彼のギターのみを伴奏に歌う藤原さくらは、英詩をブルージーに歌いあげており、意外なほどハマっていて驚きました。

「500マイル(佐野さくら with 神代広平 Ver.)」は、ヘディ・ウェストが作詞作曲した楽曲。ヘディ・ウェストは、アメリカの南東部のジョージア州の出身です。ここでは、やはり福山雅治の編曲とギターのもと、忌野清志郎による日本語詞で歌われています。細野晴臣、忌野清志郎、坂本冬美によるHISの1991年のアルバム『日本の人』にも「500マイル」は収録されていました。この「500マイル」での藤原さくらの繊細な歌唱は魅力的です。

福山雅治が全面参加した20歳のアーティストのシングル……と書くと華々しいですが、内容的にはカントリー、ジャズ、フォークを通じて、アメリカ南部へと驚くほど生真面目にアプローチしているシングルです。渋いほどに。これが日本で売れていることは痛快ですらあります。

藤原さくらがシングルをリリースするのは『Soup』が初めてですが、シンガーソングライターとして、すでに3枚のアルバムをリリースしています(ミニ・アルバムを含む)。『Soup』には1曲も彼女の自作曲は収録されていませんが、「どんな音楽を作っているのだろう?」と興味を持たせるのに充分な企画盤が『Soup』だと言えるでしょう。そして、そんな興味を刺激するのが、全曲に関わっている福山雅治であることは言うまでもありません。

藤原さくら Soup♪



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