<前置き>

■現行道路交通法における、刑法上の刑罰

・危険運転致死傷罪:懲役15年以下(最高刑) ※アルコール、ドラッグ等の服用による危険運転により、死亡事故を起こした場合。

・自動車運転過失致死罪:懲役または禁錮7年以下、もしくは100万円以下の罰金 ←栃木の事故のケースは、こちらに該当します。



********** 以下、毎日新聞より引用 ************

記者の目:鹿沼のてんかん発作死亡事故=吉村周平(宇都宮支局)

発作をコントロールするため、Aさんは毎日、薬を服用している=滋賀県内で4月、吉村撮影
発作をコントロールするため、Aさんは毎日、薬を服用している=滋賀県内で4月、吉村撮影

 ◇病気申告できぬ状況も理解を

 被告はてんかん発作による事故を過去5回起こし、医師の再三の忠告にもかかわらず運転を続けていた--。傍聴席で私はあぜんとした。栃木県鹿沼市 で小学生6人が死亡したクレーン車事故で自動車運転過失致死罪に問われた柴田将人被告(26)に対する先月の宇都宮地裁の初公判で、検察側が冒頭陳述で明 らかにした内容だ。閉廷後、「悲劇を繰り返さないため」と記者会見を開いた遺族は声を詰まらせ、最高で懲役7年という現行法の厳罰化や、危険運転致死罪の 適用拡大を訴えた。


 事故を受け、運転に関して、てんかん患者であることの申告の厳格化(不申告に罰則を設けるなど)を求める声が高まっている。もちろん、再発防止のための議論は必要だが、そもそも、てんかんという病気や患者についての理解は十分だろうか。


 あるてんかん患者を紹介したい。事故直後「患者の置かれた立場を分かってほしい」と連絡してきた滋賀県の男性Aさん(50)だ。発作を起こすと意 識を失い卒倒する。幼いころは泡を吹いて倒れる様子から「カニ」とからかわれた。今も毎朝晩、8錠ずつ薬を飲み発作を抑えている。


 18歳で免許を取った。てんかん患者の免許取得は当時認められておらず、持病を隠しての取得だった。公共交通が発達していない地方では自然な成り 行きだったという。だが、20歳の時、発作が原因で祖父母を乗せた車で単独事故を起こしてしまう。祖父は頭を負傷。退院前日に脳血栓で亡くなった。親類から「お前が殺した」と責められ、免許は取り上げられた。

 ◇正直に告げ解雇された

 仕事を探したが、免許が無ければ就職が困難な地方では厳しかった。免許再交付を受け、やっと見つけた会社では持病を隠したが、発作は突然起きた。 発覚しては解雇され、正直に申告しても解雇され、職を転々とした。今は市営住宅でパートの妻と高1の長男と3人で暮らし、日雇い派遣の仕事をしている。十 数年間発作はない。病気を申告せず免許を持ち続け、仕事以外では運転している


 てんかん患者の免許取得は、患者会の働きかけもあり、02年の道交法改正で可能になった。過去2年以内に発作がなく、今後一定期間は起こす恐れがないという医師の診断などの条件付きだ。


 だが、病気を公にしたてんかん患者は、免許拒否や就職差別に遭う恐れがある。また、てんかん患者は卒倒など重度の発作が年1、2回起きる人でも、「精神障害者保健福祉手帳」で最も軽い3~2級しか取得できない。その直接の恩恵は年50万円程度の所得税などの減免だけだ。(※筆者注釈:精神障害者手帳で1級が出るのは稀です。自身で身の回りの世話ができない、要介護状態と認定されないと、1級は降りません。また1級がおりても、受けられる恩恵は大したことはありません。障害年金1級なら、別ですが。)


 「正直に言うたら誰か面倒みてくれるんですか? 薬で抑えてはいますが、発作が起きないとは断言できない。そう言うと多くの会社は雇ってくれへん のです」。Aさんは絞り出すように訴えた。てんかん患者は発作時以外は健常者同様に暮らせるので、福祉の網の目からこぼれ落ちているのではないか。


 だから、少なからず持病を隠して免許を所持することになる。てんかん患者は手指のしびれなど軽微な症状の人も含めると国内で60万~130万人とされる。これに対し、病気を申告して免許を取得した人は約1万人だ(07年末、日本てんかん学会推計)。


 警察庁の統計では、てんかんを申告した人の中で、取得を拒否されたり、更新時などに取り消しになる人は1割程度。鹿沼の事故後、各都道府県警は 「運転適性相談窓口」でのプライバシー配慮に努めるなど相談しやすい環境作りに着手した。こうした動きは歓迎だが、もう一歩進めて「正直に病気を申告して も不利益を被らない社会を作る必要がある」と、日本てんかん協会栃木県支部の鈴木勇二事務局長(69)は指摘する。

 ◇周囲の理解で働き続けられた

 同協会が指摘するように、持病を申告し、健常者と同様に働いている患者はいる。兵庫県の40代女性は3級の手帳を持ち、障害者雇用制度で事務職と して民間企業に勤務する。他企業に一般就職した経験もあり、過労などから勤務中に発作を起こし、会社に持病を知られることになったが、結婚退職まで勤め続 けた。「病気をオープンにできるかは、家族や友人の接し方にもよる。幸い、私は嫌な思いをすることはなかった」と言う。彼女は会社側の理解や家族らの支え があったが、そうした例はまだ限られるのだろう。


 Aさんは鹿沼の事故で犠牲になった児童や遺族を思い、迷った末、批判を覚悟で患者としての身の上話をしてくれた。今回のような悲惨な事故の再発防止につながる道は私たちの足元から始まる患者が追い詰められている状況にも目を向けていきたい。



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************* 以下、朝日新聞より引用 ***************
(注)以下は、上記の栃木における事故とは違う、3年前の事故についてです。

てんかん発作事故、賠償判決(筆者追記:賠償請求額1億円に対し、8,500万円の賠償命令)

2011年10月19日

写真

息子の遺影を前に父親の伊藤真さんらは「同じ事故が繰り返さないよう役に立ちたい」と話した=横浜市中区

 「日常的にてんかん薬の服用を怠った。過失は重大かつ悪質だ」。運転手のてんかん発作による事故で中学生が死亡し、遺族が損害賠償を求めた訴訟の 判決で、横浜地裁は18日、運転手や雇用者の責任を厳しく指摘した。てんかん発作による事故は後を絶たず、遺族は悔しさを募らせる。


 「薬を飲まなかったことを重大な過失と認めた大変意義のある判決」。事故で中学2年生の長男伊藤拓也君(当時14)を亡くした父真さん(48)は、涙を浮かべながら判決を評価した。


 被告の勤務先の社長でもある父親が、被告が意識を失うことがあるのを知りながら運転させた責任も認められた。伊藤さんは「同じ事故に対する抑止力につながる」とする。


 一方で、「4月の栃木県鹿沼市以降も同じ事故が繰り返されている」と悔しがる。てんかん患者の運転は認めたうえで、「薬を飲まずに事故を起こせば重い刑が科せられる制度にするべきだ」と厳罰化を強く求めた


 妻みのりさん(47)も「判決が終わりではない。息子の死を無駄にしないように、事故の当事者として発信できることがあればやっていきたい」と話した。


 伊藤さん夫妻は、判決の傍聴に訪れた鹿沼市の遺族らに裁判の資料などを渡して情報交換した。伊原大芽君(9)を亡くした父高弘さん (39)は「伊藤さんの事故から現状は何も変わっておらず、今も事故は繰り返されている。量刑の問題などを一緒に考えていきたい」と話した。


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ここからが(双極性障害当事者である)私の考え。

まず、上記2件の事故について、被告人が薬の服用を怠ったのは、本人の過失であるので罪に問われても仕方がないと思う。
薬をきちんと服用していれば、おそらくは防げたであろう事故であるから。

しかし、「厳罰化」という方向性は明らかに間違い。

厳罰化は抑止力に過ぎず、てんかん当事者の社会的立場や権利を侵害することにつながるからだ。

ほとんどのてんかん当事者はきちっと薬を服用して、普通の生活を送れる状態を維持するのに努力しているのに、ほんの一部の当事者がこのような事故を起こしたからといって、「てんかん患者の運転=危険=厳罰化」というのは、まさに「木を見て森をみず」。

これは100%社会問題でしょう。

道交法、刑法の改正により厳罰化が進めば、ますます障害者が暮らしにくい世の中になっていきます。

明らかに、間違った方向にことが進んでいます。

最初の記事の「Aさん」が言っているように、「病気を隠して入社して、発作で病気が発覚したら解雇(←正社員なら、持病を理由に解雇は出来ませんが。)、正直に病気のことを話したら不採用ないしは解雇」となります。

このように、精神疾患・精神障害当事者を袋小路に追い詰めているのは、今の日本の社会そのものです。

障害者に対する(雇用や助成などの)社会福祉の改善、精神疾患に関する知識の啓発による社会認識の改善を行わない限り、同じことは繰り返されるでしょう。

今回の事件において、被害者遺族には気の毒をされましたが、大局的に見ると社会に一石を投じた形となっています。

しかも、それが悪い方向へ向かっていることに対して、私は強い懸念を抱いています。


※なお、私自身は罹患してから、一度も運転をしていません。一生運転しないと決めたからです。
  自動車なしでも生活できる地域に住んでいるから、そういえるのであって、自動車が必要な人の方が多いのが現状だと思います。その辺りのジレンマ解消も、法曹界には考慮してほしいものです。