「2016 こころからの手紙コンテスト」優秀賞 盈進高等学校1年 重政 優 | アイビーの独り言

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加藤りつこのブログ

世界でたった一人のお母さんだから          (スズメ)                写真  内藤達郎 

 

 

 

ナナイ へ

 20年以上前、家族と離れ、海を渡り、日本に来て、日本人のパパと出会ったんだね。

結婚して、姉ちゃん、私、弟を産んでくれてありがとう! そして、ここまで育ててくれてありがとう!

 

 今日からママのことを 「ナナイ」 って呼ばせてね。

 ナナイは 「お母さん」。 ナナイの国、フィリピンの公用語のタガログ語で。

 

 ナナイは、日本で、言葉にも習慣にも苦労したよね。 なのに、そんなことも知らずに、いままで、言うこと聞かなかったり、ひどいこと言ったりして、悲しませてしまってごめんなさい。 普段は照れくさくてなかなか言えないけど、この手紙に、いまの私のナナイへの気持ちを素直に書いてみます。

 

 

心とこころの狭間で              (河岸のススキ)                  写真  内藤達郎

 

 

 

 

ナナイもたぶん気がついていただろうけど、私、「フィリピン人のママなんて嫌いだな~」 と思ってた。 パーティ大好きで、すぐにどこでもお構いなしに騒ぐし、踊るのも歌うのも大好きだし、街で祖国の友達と会えば、大声で話すし・・・

 正直、一緒に出掛けたくなかった時があった。 日本ではほとんどだれも聞いたことのないタガログ語で、街なかで騒いでいるとジロジロ見られちゃうでしょ。 私まで見られてる気がして、特に小学生のときは、ほんとに嫌だった。

 

 一番嫌だったのは参観日。 ナナイが学校に来たら、「ガイコクジンが来た!」 って、みんなに言われるじゃん。 だから、参観日の案内のプリントは絶対渡さなかったし、「参観日はいつ?」 ってナナイに聞かれても絶対答えなかったよね。 ナナイが 「参観日、行かんでええの?」 って言ったとき、「うん、来んで」 って私が言ってたよね。

  大げんかしたときには 「日本人のママがよかった!」 って言って、ナナイを悲しませたね。 心からごめんなさい。

 

 

孤独の向こうに              (コサギ黄昏て)                    写真  内藤達郎

 

 

 

 

 いま、すっごく後悔してる。 あのときのナナイの悲しそうな顔が浮かんできて、後悔のなみだが流れてきます。 でも、いまはたくさん流そうと思う。 ナナイを遠ざけていた私の中の嫌な心もいっしょに流そうと思う。

 

 これまで、学校でもどこでも、「ハーフ」 と呼ばれ続けてきた。 顔立ちがはっきりしているし、東南アジアの血が入っていて、肌も少し日焼けしているように見えるから。

 「肌が黒いね」 「ガイコクジンじゃ!」 「なんか汚い」。 こんなことを言われたことがあって悲しかった。 思い出すといまでも涙がこぼれる。

  だから、「ハーフって嫌だな。 両親が日本人で、”ふつう” の日本人で生まれたらよかったのに」 と何度も思っていた。

 

 

大人のたったひと言に救われて咲く         (ジュウガツザクラ)          写真  内藤達郎

 

 

 

 でも、入学した高校の先生が、 ある日、 私のことを、今までとは違うステキなことばで表現してくださった。 それから、私の考えがガラリと変わったんだ!

 私は 「ダブル」 なんだって!

 

 半分しかないという意味の 「ハーフ」 じゃなくて、 ふたつもある 「ダブル」! 前向きだし、どこかかっこいいし、 とっても素敵だと思う。 こんなにステキなことに、どうしていままで気づけなかったんだろう。

 

 日本で生まれて育った私。 だから、 タガログ語は少ししか話せません。 これから勉強したいので教えてね。

 でもナナイは、タガログ語はもちろん、スペイン語、英語、日本語を話すね。 考えたら、すごい能力だよね。 尊敬します。

 ナナイがいるから、家では多言語が飛び交っているね。 私は、中学1年の時に、韓国文化が大好きになって、インターネットで韓国語を勉強しました。 いまだに韓国に行ったことはないけど、いまは、日常会話なら、ある程度は使いこなせます。

 

 

違いがあるからすばらしい           (ナンテンの葉)              写真  内藤達郎

 

 

 

 あるとき、その高校の先生が、私が韓国人のお祖父さんと韓国語で楽しく会話しているのを見て、笑顔でこう言ってくれたんだよ。 

 「とても生き生きしてるね。 家で ”多言語のシャワー” を浴びているから、自然に外国語が体に染み込んでくるんだろうね。 君には、言語の壁がないね。 ダブルは違うね」。

 これが、私が 「ダブル」 って呼ばれた最初のシーンです。

 

 私は、ナナイの作るフィリピン料理がちょっと苦手。 ごめん。 味が口に合わないんだもん!! でもね! ナナイがお誕生日などのお祝いに作ってくれるミートソーススパゲティは世界で一番おいしいと思う!!

 

 いま、ちょっと前の私とは少し違う気がする。 ナナイは、日本で苦労して、私たち子どもを育ててくれた。 ありがたいし、 幸せだし、 そして、 そんなナナイを誇りに思います。

 

 そうそう、最近、ナナイの友だちから聞いたんだけど、 ナナイが、 私や弟のことについて、 「勉強もクラブ活動もよくやってるよ!」 って話してくれたんだよね。 それを聞いたとき、涙が出そうになったよ。 私たちのことをほめてくれてありがとう。

 

自信を持って生きる        (バラ)        写真  内藤達郎 

 

 

 

 

 ナナイは私に 「勉強しろ」 って言わないね。 でも、しっかり勉強するからね! 見ていてね! タガログ語も英語も韓国語も手話もいっぱい勉強して、私は、世界の悲しい思いをしている子どもたちを救いたいんだ。 国や民族の違いで、「にらみ合い、傷つけ合う。 そんな戦争や紛争の中で悲しむ子どもたちを救いたいと思っている。

 

 ナナイの子。 ダブルの私。 いまはとっても気に入っています。 ナナイ、大好きだよ。 だから、ナナイも私をもっと愛してね。

 「ナナイ」 の母国語のタガログ語。 母という意味の 「ナナイ」。 美しいことばだね。