【むげんほうよう】
夢と幻と泡と影。人生のはかないことのたとえ。仏語。

◇  ◇  ◇

まだまだ知らない人も多いと思うので声を大にして言っておくが、実は「サンタさん」なんて本当はいない

かねてからその存在に疑問を持っていた私だったが、毎年クリスマスの朝には枕元にプレゼントが置かれていたため、“いない”という確証が得られず、もどかしい日々を送っていた。

「ソリで空を飛べるワケない。」「どうやって大量のオモチャを確保できるのか。」「そもそもコレだけ多数の子供に一夜で配るのは無理がある。」などなど、理屈だけ考えれば辻褄が合うワケはない。

あるクリスマスイブ、私は素晴らしいことに気がついた。実際にプレゼントを置く瞬間の何某かを生け捕りにし、それがサンタさんでなければ「サンタさんはいない」という仮説が立証されるではないか。

そうと決まれば話は早い。家中の鈴をコッソリ集めた私は、釣り糸とそれを結んだ仕掛けを作った。鳴子というヤツである。それらを部屋の出入り口……と言っても、窓から来ることは絶対に無いだろうから、中の扉だけ……に設置し、侵入即確保を目論んだ。

そして夜。いつも9時に寝ていた私は、その日ももちろん起きていられるハズもなく、しかし鳴子があるから大丈夫と、少しドキドキしながら眠りについた。

「チリンチリン」
「あ、サンタさん」

深い深い眠りの奥底から、鈴の音が私を引き上げてくれる。しかし、その淵は思いのほか深く、簡単に目を開けられない。

「ゴソゴソ」
「あうあうっ」

ダメだ、目が開かない。しかし頑張らなければ。このままでは来年警戒されてしまう。

「スタスタ」
「あ、待って……」

そこでようやく目を開けた私の目には、見覚えのある背中が部屋のドアから出て行く姿が写っていた。生け捕りは叶わなかったが、やはりサンタさんなんていないことが証明されたのである。

翌年、サンタさんはもちろん、その見覚えある人物までも来なかった。
いらんことはするもんじゃない……。


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