本当の意味での「 写真家 」に
皆、カメラマンにはなれる
だって、カメラマンって写真を撮る「職業」だから。
頑張れば なれる
写真家は 頑張ってもなれるけど
「頑張る」よりもどれだけ「好きか」だね
だって、それが「好き」なんだから撮る。
「好き」って頑張ってなるようなものじゃない
素直に心からそう思えるものだから
だから、カメラマンと写真家とではシャッターを押す「理由」が違うんだよ
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以前、美瑛での写真フォーラムに参加しました。
ある著名な写真家(A氏)がゲストに招かれており
このゲストと、美瑛在住の写真家、外国人写真家の3人を交えた座談会の内容に教訓として学ばねばならない点がありますので書き残しておきます。
写真家A氏は海外各地の風景を撮影し、写真集を出す程実力のある方です。
座談会のコーディネーターがA氏に
「美瑛にはどのくらい来ていますか?」と質問し、A氏はこう答えました。
A氏「1回です。」
コーディネーター
「美瑛では、農地の汚染を防ぐため、来訪者に農地に入らないよう注意勧告していますが、世界各地を見て回ったAさんはどう思いますか?」
A氏
「世界中、農地には自由に入れます。初めて訪れた土地でも、現地の方から”どうぞお入りなさい”と歓迎されますので、気にせずに入って行きます。 逆に美瑛のような場所はめずらしいと思う。美瑛も海外のように、もっと自由に出入りしても良いんじゃないかと。」
(会場から失笑とも受け取れる笑いが。というのも、フォーラムには多くの地元の農家さん方が聴きに来ていたからです。)
美瑛を訪れた方なら知っていると思いますが
農地への立ち入りは厳禁です。
農地(=地主の土地)に許可無く立ち入ることは、不法侵入と同罪ですのでご注意ください。
そして、立ち入り厳禁の最も重要な理由は
「シストセンチュウの侵入」を防ぐためです。
しかもこのセンチュウに効く薬は現在ありません。
この病害虫(人や車によって持ち込まれる)が発生した土地は「汚染地区」に指定されます。
北海道では10例ほどありますが、発生した一農家の問題では済まない、地方全体にまで迷惑をかける大問題になります。
シストセンチュウが発生したら、発生した品種のジャガイモの生産が出来なくなります。
これは地域全体を巻き込む大問題です。
シストセンチュウに耐性のある品種に切り替えて、馬鈴薯の生産を継続することは出来ますが、「汚染地区」の全ての生産者がこれに従わなくてはなりません。
仮に「トヨシロ」にセンチュウが発生したら、汚染地区の全生産者が「トヨシロ」をやめなくてはなりません。
「トヨシロ」はポテトチップスなどの原料となる品種で、富良野、美瑛にはカルビーと契約している生産者が少なからずいます。
その地域でセンチュウが発生したら、汚染地区の全生産者が「トヨシロ」を栽培出来なくなり、これが意味するところは、「ポテトチップスの原料生産をやめなくてはならない」ということ。
この地域に与える被害額は、個人が保証出来るものではありません。
そして、このセンチュウを美瑛に持ち込む最も可能性のある存在というのが「カメラマン」と「旅行者」です。
農地に踏み入り「知らなかった」では済まされないのです。
さて、ここで先のA氏の発言を振り返ってみましょう。
A氏
「美瑛も海外のように、もっと自由に出入りしても良いんじゃないかと。」
A氏は、美瑛の農家さんを前にとんでもないことを言ってしまったのです。
あらためて A氏の話を聴くと
「 美瑛がこのような事情があって、農地への立ち入りを禁止しているのを知らなかった。海外はどこもこんなことは無かった。 」とのことです。
何故、A氏が美瑛の事情を知らなかったのか ということについてもう少し掘り下げると
A氏が美瑛について何も学ばないまま「景色が奇麗だとウワサの美瑛だから 撮りに来た」という
一般の旅行者と同じ理由で来ていたことにも原因があります。
素人さんならこういう理由で訪れるのも良いでしょうが
写真家なら訪問先の土地について、撮影マナーを含む、予備知識を持って臨むべきです。
最低限守るべきマナーはアマチュアカメラマンや素人さんでも守る人はちゃんと守りますよね。
写真家ならそれ以上に訪問先の土地や人に対する敬意を持って臨むべきで
地元の農家さんを前に言って良いことと悪いことの分別もつけなくてはいけないと思います。
A氏の今回の発言は、美瑛に対する敬意も礼儀も欠いてしまうものになってしまいましたが
ここから学ぶべきことは沢山ありました。
マナーを自主的に守る人は皆、アマチュア、プロ問わず、美瑛が「好き」です。
だから、美瑛を大切にしようと考えます。
残念ながら、A氏は美瑛は好きではありませんでした。
故 前田真三先生は、地元の農家さんとの交流を大切にしていたと懐古録に残っています。
当然、撮影のために農地を歩くこともあるので、農家さんの許可をもらっていたそうです。
また、美瑛を築いて来た農家の歴史や景観を織りなす作物への理解も深いものがあったそうです。
人、土地、作物、歴史・・・その土地の全てに対する敬意が、農家さんとの接し方にも現れていたのではないかと推察します。
写真は「 撮らせて頂くもの 」で
被写体の了解や同意があって初めて、写真に収めることが出来ます。
礼儀や敬意を持ってその地域と接し、自分自身に対しては写欲をコントロールし、模範的なマナーが行えるよう心にゆとりを持って撮影に臨めると良いかもしれませんね。
最後に
冒頭の一文を思い出して下さい。
写真を撮るだけならカメラマンになれば良いのですが
美瑛が好きで、写真が好きなら
それでもうあなたは写真家です。
美瑛を大切にしようと思うなら、まず美瑛を「好き」になることが一番です。
「好き」なら言われなくても大事にします。
好きになった相手を尊重しようとします。
前田真三先生が写真家と呼ばれたように
きっと、先生もまた美瑛が好きで好きでたまらかったことでしょう。
だから、あれほど多くの奇跡的な瞬間との出会いに恵まれ、後世に大作を残すことが出来たのだと思います。