バレンタイン前日
実 明日は久し振りにみんなが揃うね~。
千 うん!ま、たった一週間ぶりくらいだけどね(笑)
実 あぁ何でよりによってバレンタインなの…
千 それは思う!あぁ今年もあれこれ言われるのかァ
実 クッキーが固いだの柔らかいだの、文句言わないで黙って食べて欲しいよねぇ
千 ねっ!私たち愛情こめて作ってるのにね!!
実 ほんと。まぁ千晃はリーダーにはより一層愛を…ね?笑
千 まぁねー、ふふっ
今年はお家に呼んでチョコケーキを2人であーんしながら食べるの…うふふっ
実 ……リア充。
千 宇野ちゃんも今年こそは頑張りなよっ
ばしっと背中叩いてにこにこする千晃。
それに対して実彩子はため息をついた。
実 告白なんてそんな簡単じゃないんだよー…
千 まぁ宇野ちゃん、クリスマスとバレンタインとにっしーの誕生日には毎回告白しようとしてるもんね
何でそんなに素直になれないのかなぁ…
実 え何か言った!?
千 ううん、何でもないっ
とにかく今度こそ思いを伝えるんだよ!!がーんばれっ
あー材料買いにいかなきゃーじゃあねっ
小走りで去っていく千晃を見ながら実彩子はもう一度ため息をつく。
実 …素直になりたいけどなれないんだよ。
ゆっくり立ち上がって、体を伸ばした。
実 告白は無理にしても美味しいって言われたいもんね!さっ、頑張ろ!
2月14日
実 何て言って入ろう…
実彩子はレッスン室のドアの前で1人、挙動不審に右往左往していた。
実 ふぅ、何で私緊張してるの。
左手に持った紙袋に目をやる。
中に入っているのは昨日徹夜して作ったガトーショコラ15人分。
メンバーと日頃からお世話になってるスタッフさんの分である。
そのまま左手についた腕時計を見ると8時30分。
レッスンが始まる1時間半も前だ。
皆が集まってストレッチを始めるのはレッスンの30分位前なので、実彩子もこれほど早く来たことはない。
実 なぁんだ、まだ誰も来てないね
実彩子はほっとしたと同時に緊張した自分が馬鹿らしく思えた。恥ずかしさを振り切るように、ガチャリとドアをあけた。
隆 あれぇ宇野ちゃん!おはよー!久し振りー!早いねぇ!どうしたのー?
実 ……。
隆 えええっちょっと無視せんといて!
実 ……おはよ。
隆 何でそんなにテンション低いのっ!ねぇ!
実彩子は、いつも以上にテンションが高い隆弘の目の前を素通り。
そしてそのままレッスン室の奥へ行き荷物をおいてストレッチを始めた。
隆 ねぇ!俺何かしたっけ!?line未読無視!?電話寝落ち!?この前の寝坊!?
実 ……うん、それ忘れてたけど思い出して更に怒りが増した。
隆 あちゃ!やっちゃった……ごめん。
(こんなに空気悪くして、バカみたい…
ただ驚いただけだったのに)
しょんぼりした隆弘を鏡越しに見た実彩子はくるりと振り返り小さな紙袋を突き出した。
実 ん。
隆 うわぁバレンタインだ!!宇野ちゃんありがとう!!
さっきとは打って変わってきらきらとした目で実彩子を見つめる隆弘。
実彩子は恥ずかしくなって赤い顔を隠すようにうつむいた。
実 こちらこそ、いつもありがとう。
隆 何!どうしたの!すんごい素直なんだけど!!
実 …今日くらいは、良いでしょう?
隆 そういう宇野ちゃんのツンデレなところ大好きだよう
実 うーさい!
(大好き、だって…)
実 そんな勘違いさせるようなこと言わないでよねっ
隆 ごめんごめん
でも良いよ勘違いしても。
思わず顔を上げる実彩子。
不敵に笑う隆弘と目が合う。
実 もー!からかわないでっ!
実彩子は更に赤くなって耐えられなくなり、レッスン室のドアに向かってかけていく。
ドアノブに手をかけようとした瞬間にドアが開いた。
実 きゃっ…あ、先生おはようございます!
おはようー!実彩子ちゃん早いのね~
真 おう実彩子!おはようー!
実 あっおはよ
実彩子はすぐにするりとレッスン室を出る。
真 おーい!どこ行くのー!っていうか俺にチョコくれないのー!!
猛ダッシュで廊下を駆け抜けていく実彩子からの返事はもちろんない。
隆 ……はぁ。
真 またにっしーかい
そんなんだから付き合えないんだよ
隆 分かってるよう!うあああああああああー!また失敗したあああああ!!
真 こんな様子だと2人が付き合うのはしばらく先やな
隆 えっなに?
真 …何でもない。頑張れや
真司郎の言う通り、2人が付き合うのはもう少し先のことである。
fin.
sumile