夕暮れ蝉の音が聞こえるとわくわくしちゃってほんとはいけないんだけど今日も夏期講習あるって嘘ついたから出かけられる
 お母さん、夕飯はいらないよ、と声かけて、お年玉の残りで買ったミュールを履いていく(そんな靴って言われたけど夏休みだからいいでしょって、いったの)

そういうの、なんか少女漫画みたいな、感じの幻想。
きらきらしたミュールとか、年齢より背伸びした化粧、眉を(先生に目をつけられない程度に)整えることとか、現実のわたしは実際にやっていたんだけど、別にやんちゃをしていたわけではなくって、きらきらしたミュールで図書館に行ったし、背伸びした化粧は仕事用だったし、遊びではせいぜい夏祭りとか、カラオケボックスで歌うのはアニメソングで、別に周囲にやんちゃな子がいるわけでもなくって、でも幻想の夏がある、どこにあったのかな、少しやんちゃな女の子。
勉強はそこそこできるけど、夜遊びもたまにしちゃうような、そういうあこがれな感じ、勉強はできないとかっこわるいからできるの、かっこいいな、かっこいい不良みたいな、まあでもそういうの知らないから、いないし。
わたしの住んでいたところは街中だったから別に脱出先もなくてむしろそういうのダサいっていうかわざわざおしゃれして街中に集ったり制服改造するような、そういうの、だって近所じゃん?まあダサい制服恥ずかしかったけど、でも私服着るとまあわたし年齢不詳感出るしそれでよかったんだ別に、おしゃれなお店に入るのは、タダだもん、ちょっと歩けばデパートだし、かっこいいビルたくさんあるし、うろうろしていれば楽しい、楽しい街で別にやんちゃする必要なかったし、近所の大きい公園はナンパスポットかつ薬の売買スポットだしわざわざ行く必要ないし酔っぱらいはうるさい。
歩き疲れて入った薄暗いダイニングバーでわたしは「コインロッカー・ベイビーズ」を読んでいて春樹より龍の方が性描写が面白いと思ってでも過激な描写のこと言うのも恥ずかしい年齢で(でも楽しい、14歳だから)もちろんひとりでダイニングバーなんて入らない、ちゃんと保護者も一緒に、飲み物はジュースで、ふつうにご飯を食べていただけだけど、でも、ちょっと自分に酔った感じ、そういう夏の日、ほんものの記憶。
引き出しがないから、わたし。思春期のはなしをすると、なんかいい話っぽいし、結果別に何があったわけでもないんだけど、それ以降のわたしについて特筆するところはないというか、つまんないし。
夏がすごく好きになってやっぱりコントラストが強いのもいいし夜も楽しいから、今夜も楽しい夜のはず、だけど、別に、自分を好きになるような、そういうタイプの記憶を重ねることはできなかったから、ただ忘れるつまんない一夜として終わって、明日汗ばんで目覚めてきっと失望する。ね。




こういう女の子になりたかったの
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