自分がまだレフェリー見習いだった頃の話。
後楽園ホールの搬入でDDTカーから荷物を下ろしていました。
みんなでテキパキと荷物を下ろす中、自分はキャンバスを下ろす事に。
当時のキャンバスは袋などに入っていなくて、裸の状態でした。
何も知らない自分はトランクから地面に下ろそうとしてしまいました。
すると大家さんが物凄い勢いで走って来ました。
「オイっ!何やってるんだよ!」
『はい?』
「キャンバス地べたに下ろすとか有り得ないだろ!リングって神聖な場所だろ?選ばれた人間しか上がれない場所じゃねーのかよ?!レスラーの顔が着くんだぞ!それを地べたに置けるのか?そういう風には考えられなかった?まぁその程度の気持ちしかないんだったら別にいいけど。そんなんじゃデビューは難しいと思うけどね。」
僕は泣きそうになりました。
めちゃくちゃ恥ずかしかったし、めちゃくちゃ反省しました。
そして同時に嬉しくもなりました。
そこまで真剣に怒ってくれる先輩がいるというのは幸せな事だと思ったのです。
大家さんにそこまで怒られたのは後にも先にもその時だけでした。
この教えは以後の自分にとても大きな影響を与えました。
何をするにも心のどこかに残っています。
つい謙虚さを忘れそうな時、自分に甘えて妥協しそうな時。
あの日の大家さんが自分を叱ってくれます。
あれから3年、なんとかデビューまで漕ぎ着け無事にレフェリーを続ける事が出来ています。
でも、あの日の教えがなかったらデビュー出来なかったかもしれません。
もっと大きな問題を起こしていたかもしれません。
もしかしたらDDTに残れなかったかもしれない。
それくらいこの「キャンバスの教え」はその後の人生を左右した、とても大きな出来事にだったのです。
そして今日。
大家さんはキャンバスを会社のビルの共用玄関前に置きっぱなしのまま、車でどっかに行っちゃいました。
てへぺろ☆