ベストキッド | ハクナマタタ

ベストキッド

数日前にベストキッドのリメイク前を地上波で観た


ジャッキーとジェイデンくんの2010リメイク版ベストキッドは8月に劇場で観賞



初代のベストキッドを観たのはかなり前なので、観ながら記憶が蘇ってきて

リメイクは細かく元を忠実になぞってるんだねーと

改めて思った



便宜上、初代のべストキッドは旧、リメイク後は新、と

ここでは書く




新ベストキッド

・ドレ(ジェイデン・スミス)=旧のダニエル

・ハン(ジャッキー・チェン)=旧のミヤギ



新ベストキッドの主役、ドレを演じたジェイデンくん

惚れ惚れする身体能力


身体能力にも目を惹かれ、そしてもうひとつ


彼の器です



これは役柄上のものなのか、演じたジェイデン・スミスが持つものなのか

他の作品をみていないので定かではありません


ただ、鑑賞して時間がたつほどに彼のことが鮮明に蘇ります



ストーリー的には違う土地からきていじめられ、

強くなろうとカンフーを習い、

いじめっこに打ち勝って心も体も強くなる


新も旧も変わらない大筋


なのになぜだろうなあ


新はドレにみな甘えているようにみえる



もともとアメリカで仕事をしていた母親の都合で、

ドレと母親は中国に引越しをする


大人にも子供にも

どうしようもできない事情というのは多い

けれど、子供は圧倒的にどうにもできず巻き込まれることがある

ありていにいうと経済力

これがどうしてもない

特異な環境のもの以外は、大体は親に帯同する

いやであろうと

どうして?と思おうと


この映画での環境の変化、引越しはその最たるもの


もちろん、そういう事柄に対処しながら、

たいていの人は諦めや納得や歩み寄りを覚えて

理不尽なことをだんだん受け入れられるようになってゆく


この物語の中のドレも、

アメリカを離れたくはなかったが

母親は仕事の都合で中国へ

父はいない

しかし、自分が母親を支える、がんばるっていう優しい気持ちがみえるし、

実際、飲み込んだ気持ちもある上でがんばろうとしている


その中で

新しい環境で彼はいじめにあう

よーし、いっちょ強くなってやったるかー

というスカっと感がどうもわたしには感じられなかったわけで

それは新のほうがこの部分を掘り下げているからではないだろうか


物語のシークエンスとして

引越し(起承転結の「起」)→いじめ(強くなろうと思うきっかけ、「承」)→修行(絆と強い精神の育成、「転」)→勝利(達成感、「結」)をみたとき、

この「転」「結」に向かうための「起」と「承」である部分


映画の中で、物語の中で、

さらっと描こうとおもえばさらっといける部分である


「承」から「転」に向かうには

実はこの裏には、

学校に行きたくない気持ち、

母親にいじめられていると言えない気持ち、

どうして中国なんかに来なきゃいけなかったんだという気持ち、

それでもやろうという葛藤


そういったものがあるが、描かなくても「転」にすすめる

観る側には想像力があるし、

そこはきっかけとして描くだけで掘り下げないこともできる


新のほうが

ここを丁寧に描いていると思う 


ドレが一度だけ母親の前で爆発するシーンがある

こんなところいやなんだ、と

どうしてこんな目にあっているんだ、と

どうしてアメリカにいられなかったんだ、と


つい口をついて出た言葉が、

母親を傷つけることがわかっているのだろうと想像させる表情だった

言ったそばから後悔しているように感じた


わたしは正直、あの母親のノーテンキな発言にはイラっとしていた

それは新天地でがんばろうと思っているカラ元気な部分もあるし

状況を重く考えないこと

そういう処世術でもあるし、防御法でもあるし、もともとの性格かも


でも、子供がアメリカを離れたくないのは気づいていただろう?


ノーテンキなことにイラついたのではない


気づかないフリをしたことだ


仕方ないことがある

こんなことはわかっている

それを払拭しようとがんばっている

それもわかる

明るく過ごそうとしている

それもわかる

でも、その上で、

仕方ないことを飲み込んでいる子供に、気づかない「フリ」をする無神経な部分にもやっとした


あー責めてない責めてない


子供に甘えることもある

わたしも大変甘えてきた

だから余計イラっとした

これは同属嫌悪だろうな


藪をつついて蛇をだすようなことは

必ずしもしないほうがいいのだろう


でも、がんばってる子供が爆発したときは

我慢して我慢して

そして爆発する

ここもすれ違いの部分もあるのだけど

親は本当は気づいていて、

その部分に触れないように明るく振舞い、

子供は、(なんで気づいてくれないの?そんなノーテンキで…)

と、一瞬思ってしまうときがあったりする

でも本当の本当は二人は思いあってて、

現状をがんばるしかないことはわかりすぎるくらいわかっているもので


その部分に親が気づいてくれている、と確信できたならば

子供はもっとがんばろう、助けよう、と思うのだろうね



このどうしようもないことへの諦めについては、

スラムドック$ミリオネアを観たときも感じた


人が「怒り」の感情を持つときはどんなときか


それは、自分がこんな扱いを受けるのは不当だ、と思うとき

不当だ

他人のことで怒るときもそう

あの人があんな目にあうのはおかしい

これも不当だ、と感じるから怒る


とにかく、こんなはずじゃない

こんな扱いを受けるなんてありえない

おかしい


そう感じるから、

例えばサービス業のサービスにおいても

同じサービスを受けたとしても満足する人と満足しない人がいる

ラインが違うからだ


こんなもんだ


と思っていたら不満は持たない



諦めろって言ってるんじゃない


そういうラインを

国や地域や家庭環境により、

育った土壌で「違う」ことを感じるときがあるなって話


スラムドックはそのラインの低さにまず日本人はなじめない

物語の中としてはなじめるかもしれないが、

実際に自分がこの物語の中の登場人物と同じ目にあうとしたら

この中の人たちのように達観できる日本人はどれくらいいるのだろうか


もちろん、インドでのことをかいた映画なのでカーストという意識も影響している

それにしてもわたしたちが「ひどい…」と思うことも、「仕方のないことだ」と受け入れる人々が映し出される

日常の過酷さが感じられ、しかし「過酷」と、日本人が感じようと、

この環境で暮らしてきた者たちは、わたしたち(日本人)に比して、思っていない

過酷であることが当たり前の日常であるのだな…ということが思い知らされる

そこが胃の中に鉛がたまっていくような気分になるのだ


ベストキッドでも

ふっと

それを感じて


スラムドックほどではないけれど、

仕方ない、と思うラインを感じて少し憂いた


その後はそこに深く深く触れず、

母親に対しても以前のとおり接しており

時間の都合で掘り下げないのか

演出上掘り下げてもくどくなるし、主題からずれるからか

深読みすれば、グレー域に生きる優しさをドレが知っているからなのか

とにかくその後は物語の「転」「結」に向かってすすむ



ここに焦点をあてて長々書いてしまったが

この物語の主題はそこではない


その「仕方ない」こと以外の、

自分でできること

自分でなんとかできることをまず、

「やろう」と思い、

そして「達成」する


ただの順風満帆のやったぜ物語にならないのは、

ドレが自分の与えられた環境の中で

これからの自分を確立しようとしているからだ

仕方ない環境を踏まえて、そこから変える


そこに、

いろんなものを受け入れる(達観ではなく)現状を受け入れてがんばる彼をみて

やってくれ!と盛り上がり(結末はわかっているのだけど)

やったね!と思う


最初にいった彼の器


ドレ

なのか

ジェイデンくん

なのか


これは最後のほうのシーンの師匠であるハン(ジャッキー)が

自分の過去の傷をドレに打ち明けるシーンでも感じる


あの内容を打ち明けるにあたって、

相手が信用に足る

絆ができたと感じる

相手が受け入れてくれる気がする


そう思えなければ打ち明けない話だろう



打ち明けていい

そう思える


でもそれは、わたしにはその大きな理由はドレの器のような気がしてしまう



年齢的に子供なのに

子供だけど

甘えていい気がしてしまうそんな器


ドレは師匠にカンフーを教わりながら

心も体も成長してゆく


それでも終始一貫、

成長とは別に、

ドレくんに甘えたくなる

そんな雰囲気を漂わせる


中国で初めて友達になった女の子もね

ついたり離れたりって展開がある中


なんかこう…

許してくれそうな

ドレは笑ってウインクしながら「いいさ」って言ってくれそうな←そんなシーンはないが


ドレくんに任せたいような

エスコートされたい気分になるんである



起承転結の「転」「結」に関してあまり書いてない


これは観るべし


試合は敵役の子供たちも身体能力が高く、見応えがある


展開は旧と同じ

しかし試合は新のほうが目が惹かれる



そしてラストシーン


ハン(ジャッキー)に向けられたもの

ハンが教え、ドレが受け継ぎ、体現したものへの答えがあり、

ジーンとなった



このリメイクは成功している


いじめのシーンがやや長い


そこもラストにむけての苦いシークエンス

耐えよう




ジェイデン・スミスに魅せられた一作