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ごく普通の、素朴な田舎の村だった。
子ども達が着ている服には
都会の子どもと同じキャラクターがついているし、
若者はこぎれいな格好で携帯をいじっている。
人々が話すスペイン語はメデジンと何も変わらない。
山に囲まれた村の中央には教会と小さな広場があり、
その横のサッカー場では大人も子どもも
一緒になってボールを追っている。

 

 

 

 

 

 

 

人口1700人のインディヘナ自治区、
Resguardo Indigena Cristiania
(レスグアルド・インディヘナ・クリスティアニア)。
embera chami(エンベラ・チャミ)族の居住地である、
この地区を訪れるために家を出たのは
まだ薄暗い朝4時45分。
普段朝起きるのが何より苦手な私が
午前3時半に起きられたのは奇跡だが、
それだけ楽しみにしていたということでもある。
 

 


コロンビアのインディヘナは87の部族に分かれ、
言葉も文化も部族ごとに違っている。
Resguardo Indigena(レスグアルド・インディヘナ)
と呼ばれるインディヘナ自治区の数は710。
そこでは教育、言語、法律など様々な面において
コロンビア政府から自治権限を認められている。

Pueblos Indigenas en Colombia
 

Indigenous peoples in Colombia
 

 

コロンビアであって、コロンビアの法律が適用されない場所、
旅行者はもとより、一般のコロンビア人が立ち入るには
地区の代表者の許可が必要な場所、
インディヘナの言葉と文化が現在進行形で息づく場所、
事前に話しを聞く限りでは
多少閉ざされたイメージもあったインディヘナ自治区だが、
バスが村に入ると、拍子抜けするほど
どこにでもありそうなのどかな農村だった。
 

 


けれどボランティアグループを乗せたバスの到着を歓迎する
人々は日本人にもどこか似たアジア系の顔立ちに浅黒い肌、
そして教会でマイクを握る聡明そうな女性が口を開けば
流れ出るのはスペイン語とはまったく違う、
チャミ語のアナウンス。
私が生まれて初めて聞く言葉だ。
 

 


「カオリ、インディヘナの村に行きたい?」
とマリアさんから電話が来たのは
4月だった。
日本語クラスの卒業生の
アンドレイタちゃんのお母さん、
マリアさんはAVHOSという、
医療関係のボランティアグループに
所属している。
病院関係者を中心としたこのボランティアは
きちんとした医療設備のない僻地の農村や、
インディヘナ自治区などを医者、看護師、歯医者、
ソーシャルワーカー、美容師などと共に巡回し、
住民に無償で医療サービスを受ける機会している。
チームのメンバーには心理士、栄養士などもいて、
生活環境や教育関連の相談にものってくれる。


マリアさんは昨年からこのボランティアに参加していて、
インディヘナ自治区巡回の計画をたてている際に
「きっとカオリも行きたがるだろう」と思いつき、
チームリーダーであるソーシャルワーカーのホセさんに
「折り紙ができるおもしろい日本人がいるから
一緒に連れて行ったらどうでしょう?」
とアピールしてくれたのだ。
そのおかげで今回の同行が許可されたので、
マリアさんには本当に感謝してもしきれない。
アシスタントとして現在我が家に滞在中の
日本人バックパッカー、ちのちゃん(男性)も
同行させてもらえることになった。


メデジンからバスで4時間、
朝早かったのでバスの中ではずっと寝ていて、
気がついたらもう村の中だった


村の広場にある教会に入る。
けっこう広くて、祭壇の横には
巡回に来た教会関係者の方々が使用すると思われる
簡易宿泊設備もついている。


「折り紙のワークショップはこの教会でやって下さい」
と声をかけてきた20代前半に見える
女の子の名前はジュラニ。
先ほど今日のプログラムについて
チャミ語でアナウンスをしていた女性の
妹らしい。

彼女にワークショップのアシスタントをお願いし、
ちのちゃんに浴衣を着せてもらう。
「ずっと前から日本の着物がほしくて
探していたんです」
とうれしそうなジュラニさん。
お仕事はエンベラ・チャミ族伝統舞踊の
ダンサーだという。
 

 


折り紙を折るのに机がないのは難しい。
ましてやこれまで「オリガミ」という
言葉を聞いたこともないまったくの
折り紙初心者が教会全体を埋めるほどいる。
イスに座りきれなくて、
立ち見をしている人までいる。
ホセさんと話した段階では
学校の先生など教育関係者を対象に行ってほしい、
との話しだったが、集まっているのは子ども、
そのお母さん、お年寄り、そして後ろの方に
若者達という集合体。
 

 


だがここで
「折り紙は机のある部屋で少人数がベスト」
などと言っても始まらないので、
ジュラニさんの助けを借りながら
ゆっくりゆっくり進めていく。
若い人はスペイン語もネイティブだが、
お年寄りや子ども達にとってはやはり
チャミ語が第一言語なのだという。


なんとかシャツとハートを折り終わって、
ワークショップは終了。
本当は写真と動画で日本の紹介もやる予定だったが、
プロジェクターが他のワークショップで
使用中とのことで今回はあきらめた。
 

 



終わると同時に
「一緒に写真撮って!」の大撮影会が始まる。
事前にいろいろな人から、
インディヘナの村では写真を嫌がる人が多いので
写真を撮る際はきちんと許可を取って、
細心の注意を払うようにと聞いていたので、
これは意外だった。
みんな普通にスマホでカシャカシャ撮っている。
後で聞いたところによると、
私とちのちゃんが
この自治区に来た初めての日本人、
というより初めてのアジア人だったらしい。
 

 



ワークショップの後はお昼を食べて、
学校で行われている散髪やバザーなどを
ちょっと見学したら、もう帰る時間だった。
正直言葉も文化も学ぶ暇がなく、
村の人ともまだまだ話し足りなかったが、
AVHOSというグループの一員として
来ている以上、わがままは言えない。

床屋さんの他に、
ネイリストも同行していた↓

 


村の自警団の男性。
持っているのは先住民のシンボル、バストン(杖)↓

 



帰り際にのぞいた、小学校の教室には
スペイン語ではなく、
チャミ語のアルファベットのポスターが貼ってあった。
1年生の時間割表には
スペイン語:週4時間、
そしてチャミ語:週3時間と記載されている。


言語はすべての社会の土台と言われる。
土台がゆらぐと社会もゆらぎ、
社会がゆらぐと文化もゆらぐ。
言語が死ぬと、やがてその社会も文化も道連れだ。


この村ではチャミ語がしっかりと
エンベラ・チャミ族の文化と誇りを支えている。



帰りのバスの中で衝撃的な話しを聞いた。


私が自治区を訪れたのは
5月21日の土曜日だったが、
その3日前から準備のために前乗りしている
グループがあった。
自治区に宿泊施設はないので、
近郊のハルディンという町に滞在し、
通いで準備を進めてくれていた。
その前乗り部隊の一員だったマリアさんが言うには
グループの一人、ある女性のバッグが
盗難に遭ったと言う。

荷物置き場に置いていたはずなのに、
どこを探しても出てこず、
長年ボランティア活動を続けているが、
こんなことが起きたのは始めてだ、と
グループのメンバーも村人もショックを受けていたところ、
村のシャーマンが、
占いによって盗難の犯人がわかった、
と告げたそうだ。

そして、

「私には犯人がわかっている。ボランティアグループの
本隊が到着する土曜日までに返せばよし、
返さない場合は村人全員の前で犯人の名前を告げ、
相応の罰を与える」

と教会で村人に告知した。


すると、本隊が到着する土曜日の朝、
診療室に使う予定の小学校の教室の机の上に
女性のかばんが置いてあったと言う。


女性が中を確認したところ、
財布の中身もカード類も抜かれておらず、
なくなった時と同じ状態で返ってきたとのこと。

私はこの話しを聞いて胸が高鳴った。


シャーマンが実際に占いで犯人を探し当てたかどうか、
は重要ではない。

シャーマンの宣言によって、
盗難されたかばんが返ってきた、
その意味はこの村ではいまだ
シャーマンが尊敬され、
シャーマンの力が生きている、
ということに他ならない。



一見ごく普通ののどかな農村。
スマホもインターネットも珍しくない、
現代を生きる村人たち。

けれどここには
シャーマンの魔法が確かに存在する。

「シャーマンがいるんですか?!
ぜひ会って、お話しを聞きたかった!」

と残念がる私にマリアさんは、


「なんだ、会いたかったら言えばよかったのに。
その辺にいたのに」

と一言。

コロンビア人にとって、
インディヘナの村にシャーマンがいることは
特に驚くに値しない当たり前のことなのだろうか。


137万8千人。
コロンビアに住むインディヘナ(先住民)の
総人口は日本の都市で言うと、
人口順位9位のさいたま市(122万人)や
10位の広島市(117万人)を軽く超える。

コロンビアの総人口の3.4%を占め、
インカ帝国につながる長い歴史と伝統を持つ
インディヘナの人々と、
都市部に住む一般のコロンビア人の間には
透明な膜が存在するかのように
文化的にも社会的にも隔てられている。

学校教育でも小学校の歴史の時間に軽く
触れる程度で、大多数のコロンビア人は自分の住んでいる県の
部族の名前さえ知らず、
当然文化も言語も知らない。

実際のところ、
今回の訪問の前に少しでも情報を得ておこうと、
私は日本語の学生達に
エンベラ・チャミ族の習慣やタブーなど
何か知らないか、と尋ねてみたが、
ほとんどの学生は
「エンベラ・チャミ族」
という名前を聞くのさえ初めてで、
中にはアンティオキア県にインディヘナの自治区が
あることも知らなかった、という学生もいた。

学校では先住民の歴史や文化について
ほとんど触れないのだという。


先住民とコロンビア政府の間には
長くて悲しい歴史がある。

長年コロンビア社会を悩ましている
武装ゲリラ集団の大半は
インディヘナ出身という説もある。

が、同時にゲリラに土地や家を奪われ、
故郷を追われた国内避難民の多くも
インディヘナ出身だ。

ボゴタやメデジンなどの都市部には
そうやって土地を追われ、
路上で物乞いをしているインディヘナの
家族の姿もよく見かける。



また近年はインディヘナ自治区周辺に眠る
天然資源に目をつけた海外企業が
土地の売却を政府にせまり、
政府がお金のためにインディヘナの土地を
外国企業に切り売りしている、というのは
もはや否定できない事実であり、
インディヘナの部族と政府は何度ももめている。

政府との対立、ゲリラによる強制移住および虐殺、
自然環境の変化等により、
独自の文化、言語、コミュニティの維持が難しくなり、
コロンビアの87部族のうち、
34部族が現在絶滅の危機に瀕しているという。

 

 

34 etnias indígenas de Colombia, en riesgo de extinción

 

 



この問題に詳しい人の中には
「政府には本気で先住民の権利を尊重しようなんていう
気はないよ。もし絶滅する部族がいても、
これでその土地を外国企業に売れるからラッキー、
としか思わない」
という辛らつな意見を述べる人もいるが、
それもあながち否定しきれない。

《アジアプレスネットワーク》
コロンビア・復権を求めて立ち上がる「先住民族」



そんなコロンビアの現状の中で、今回実際に自治区を訪れ、
村の人々と直接話す機会が得られたのは
本当に貴重な経験だった。


メデジンに帰ってから、
ジュラニさんにメールを送った。



「今日はありがとうございました。
ところで、クリスティアニアにシャーマンが
いるって本当ですか?」



ジュラニ
「はい、もちろんいますよー。
私の父はシャーマンでした。
数年前に亡くなりましたが、

それまでこの村の長老の一人として村の運営に携わっていました。
また、私の祖父、おじ、それからおばもシャーマンですよ。
私の家はそういう家系なんです」



浴衣を着て、
折り紙のワークショップを手伝ってくれた
ジュラニさんはなんと
シャーマンの娘だったのだ!


さらにジュラニはスペイン語名で、
チャミ語の名前はurapono(ウラポノ)さんという
こともわかった。


ジュラニさんはお母さん↓

 

 



民族衣装のジュラニさん↓

 

 



ジュラニ
「もしシャーマンに興味があるなら、
ぜひもう一度クリスティアニアに遊びに来て下さい。
家族を紹介しますし、よかったらうちに泊まって下さい」




「わー、ほんとにいいんですか?
もうすぐ大学が夏休みに入るので、
ぜひ伺いたいです。

今回準備していてできなかった、
日本の紹介もしたいし、
折り紙も一度では覚えられないので
もう一度きちんとやりたいです」

「ただ自治区に入るには代表の方の許可が
必要だと聞いたのですが、
どなたに申請したらいいのでしょうか」




ジュラニ
「大丈夫、もうあなたは私たちの友人です。
いつでも来てくれて問題ないですよ」



ということで、
夏休み、再度クリスティアニアを訪問する

せっかくの申し出なので、
ジュラニさんのお宅に一泊させてもらい、
シャーマンだったお父さんについて
いろいろなお話しを伺ってみたい。


ジュラニさんによると、
エンベラ・チャミ族にはJaibanismo(ハイバニスモ)
という独特の伝統宗教があり、
シャーマンはJaibana(ハイバナ)と呼ばれ、
尊敬されているとのことで、
森に住む動物たちはすべて死んだ人の魂の化身だという。

el Jaibanismo



日本語の学生達にこの計画を話すと、
一人の女の子が
「私も一緒に行きたい。ワークショップを手伝います」
と申し出てくれた。

さらにメデジン近郊で活動する、
青年海外協力隊の女の子も
同行してくれると言う。


日本とエンベラ・チャミ族、
そして日本語の学生と
エンベラ・チャミ族の
小さなつながりの種が
今後どんな花を咲かせるか楽しみだ。



 

インディヘナ自治区:クリスティアニア
のドキュメンタリー(スペイン語)↓




ジュラニさんにもらった、
手作りのネックレス。
一つ一つの色にそれぞれ意味があるという↓




村の入り口のお土産屋さん↓

 



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