ニホンダマシイ

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日本の素晴らしい、技術、歴史、伝統、文化は、どんな思いから創られ、築かれていくのか。このブログでは、まだそこまで知られていない、胸を晴れて世界に誇れるモノや日本で頑張っている人にフォーカスし、様々な角度からご紹介していきます。

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3.表情が変わるとき


蘇我英樹はリングを降りている時は拍子抜けしてしまう程、物静かで温和だ。
それは試合当日のこの日も変わらない。
試合の準備や軽いトレーニングの合間も自身のファンや友人と笑顔で談笑していたり、ほのぼのと写真を撮っている場面を幾度となく見かけた。
とてもタイトルマッチをこれから戦う人間とは思えない。
逆に、こちらの方がプレッシャーはないのか?と心配してしまう程だ。
それほどまでに落ち着き払っていられるのは、経験からなのか、はたまた、自信から成せる技なのであろうか。

蘇我英樹


ようやく控え室に戻ると、軽いストレッチが始まる。

ジムの関係者より次々に伝えられていく試合経過。
その結果に何も動じること無く、淡々とマイペースに準備運動をこなしていく蘇我。

蘇我英樹


しかしその時、私は先程まで感じていなかったこの部屋の違和感に気づいた。
いつの間にか、リング上と同じ、あの人を近づかせない野生のオーラがじわじわと控え室に立ちこみ始めているではないか。
また、それを悟ってかジムの関係者の言葉数も徐々に少なくなっている。
そして、何より、先程迄の表情とは一戦を画すように、蘇我の顔つきが変わっている。

私は、思わず息をのんだ。
今、正に目の前で、あまりにも自然に“蘇我英樹”から”キックボクサー蘇我英樹”へとスイッチが切り替わったのだ。

あまりにも唐突な意識の切り替え。

上手く言葉に言い表せないが、きっと、これがプロというものなのであろう。
そして、その芸術とも思える程の意識の切り替えを目の当たりにした時、同時に素人ながらに直感する。

恐らくこの男は、“試合の入り方を知っている。”


4.「孤独の戦い」に続く

文/写真 永渕 元康(Team Janqish)