北方謙三に「司馬遼太郎賞」 | 日月抄ー読書雑感

北方謙三に「司馬遼太郎賞」

昨日、本年度の「司馬遼太郎賞」が『水滸伝』全19巻を完成させた北方謙三氏に決まった。その受賞理由は「中国の古典を分析、解体したうえでみごとに「北方水滸伝」として再構築してみせた力作が19巻をもってついに完結した。形容句をいっさい排除し、名詞と動詞のきびきびした文章で登場人物の感情を表現。大長編をつねに緊張感を保ちつつ書き上げた力量は、高く評価されるべきものであろう。英雄的人物の魅力的な描きわけも、小説の醍醐味をいっそう確かなものにしている。痛快にして爽快な大傑作に対して」とある。

北方謙三はハードボイルド小説の作家とばかり思っていたが、後醍醐天皇の子、壊良親王が父の命で南朝を立てるために九州に赴き武士と戦う様を描いた「武王の門」を読んだとき、自由を求める山の民と呼ばれる集団との出会いなど歴史小説に新境地を開いたのかと驚いたことを覚えている。

彼は全共闘世代で、今日の毎日新聞の「ひと」欄で、「全共闘運動で血をたぎらした体験が執筆の根っこにあり、機動隊に殴られるたびに、革命の可能性を、国家のあり方を考えたのだと思う」と述べているように、彼の反権力の姿勢が歴史小説に流れていることを知った。

水滸伝」の原典は明代に完成された長編小説で,12世紀の中国で、梁山泊に集まった豪傑108人の興亡を描き、反権力的な内容でしばしば禁書になったといわれている。水滸伝の登場人物については発行元の集英社の」「北方謙三水滸伝] から把握できる。「北方さんはその意図を「皇帝も、施政者も、時代ごとに全部替わるのが中国史です。そこで反逆の意味を問いかけたかった。今いる場所から動きたいとか、今の自分を変えたいといった反逆への思いは、人間の本性にあるもの。そして、国家への反逆を通して、連帯の可能性も表現したかった」と述べている。[韃靼疾風録]で中国の明末を描いた司馬さんも喜んでいるにちがいない

これから「水滸伝」の続編として「楊令伝」について書く予定だそうだ。「宋という国家がどう滅亡していくかをきっちり書きたい。同時に、権力の正体を追求したいのです。革命軍だって政府を倒した途端に権力になる。すると、すぐに新たな梁山泊ができるでしょう」と語っている。

なお司馬遼太郎賞授賞式は「菜の花忌」 に開かれる。ぜひ参加したいと思っている。

北方謙三著 水滸伝全19巻  集英社 2005年10月19巻発行