ガレリーの言葉 | 日月抄ー読書雑感

ガレリーの言葉

7日のNHK60年記念番組「ZONE・核と人間」を興味深く見た。ZONEとは放射能に汚染され、立入禁止となった区域のことである。60年前の広島・長崎への原爆投下以来、地球は数え切れぬほの「ZONE」で覆い尽くされている。この番組は、人類が核分裂反応を発見し「千の太陽」と呼ばれた原子力を手に入れてから、原爆投下・核実験競争・原発事故に至るまでの70年間で、人間はいかにしてZONEを抜け出そうとしてきたのか描いたものである。

その中でアメリカで原爆製造に協力した科学者たちを批判した劇作家ブレヒトの「ガリレイの生涯」が紹介されているのが目を惹いた。地動説を唱えたガリレイは宗教裁判にかけられるが、地動説を捨てること強制される。彼が宣誓の言葉に続いて小声で「それでも地球は動く!」と叫んだという逸話は有名であるが当時の裁判制度からしてありえないと考えられている。結局彼はブルーノーのように最後まで説を曲げない真理の殉教者としての道でなく、科学者の道を選んだわけであるが、最後まで苦難の道を歩んでいる。

アメリカに亡命していた、ブレヒトはアメリカが原爆投下の事件に遭遇し「ガリレイの生涯」を改訂して異端裁判に屈して地動説をまげたガリレイの自責の念、自己省察を詳述している。NHKの「ZONE・核と人間」では、ドイツの科学者アインシュタインがナチズムを倒すため、アメリカ軍部に協力し、学者仲間の求めに応じ、ルーズベルト大統領あてに、原爆開発を暗に促す手紙を書いたことを紹介している。そしてブレヒトの戯曲はアメリカが人類史上初めて原爆を製造し日本に原爆投下したキッカケを作ったアインシュタインを暗に批判したものであると説明していた。(アインシュタインは悔悟、平和主義者になるが・・)

閑話休題。昨日衆議院が解散されたが、小泉首相が記者会見の中で突然、このガリレイが出てきたのには驚いた。つまりガレリーが宗教裁判で「それでも地球が動く」と言った例を引いて、いくら郵政民営化案が否決されても「それでもこれを通す」ことを強調したのである。小泉さんは自分を殉教者と思ったのだろうか?彼の高揚した話し振りぶりに苦笑してしまった。

ブレヒトは「ガリレイの生涯」の中で.「英雄のいない国は不幸だ!」といったことに対して「違うぞ,英雄を必要とする国が不幸なんだ」とガリレイに言わせている。ファッショの匂いがする現代の為政者にこのガリレイの言葉を捧げたい。

ベルトルト・ブレヒト著;岩淵達治訳 ガリレイの生涯 岩波書店 2004/7刊