神様のカルテ (小学館文庫 な 13-1)/夏川 草介
¥580
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この本、団長さんの記事を読んでからずっと気になってました。

もう買おうビックリマークと思ってたのでいいタイミングで文庫化してくれましたグッド!


この本、まったくの偏見で、


「Dr.コトー」的な無医村に派遣された若い医者とその患者(・・・もしくは看護婦)の淡いラブロマンスの話。


だと思ってました(^▽^;)

多分、帯のアオリ「この病院では奇跡が起きる」から連想したんだと思います。


いやぁ、違った。いい意味で。

「読みやすい森見登美彦」みたいな感じですw


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栗原一止(いちと)は信州の中堅病院で働く内科医。

365日24時間対応をモットーにしたその病院では医者の数は全く足りず、徹夜続きの激務の毎日。


しかし、そんな日々が嫌いでは無い一止に


「大学病院で最先端の医療を学んでみないか」という誘いが来る。


最先端医療にも興味はあるが、目の前の患者を見捨ててもおけぬ。

自分の今後の進路に一止は悩むのだった・・・・


*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆


・・・・と、あらずじを書いたらこうなりますが、この作品の魅力はそこではありません。

この一止さん、物の言い回しがとことん古風。


「風来坊」に「~がなかろう」なんて現代の話し言葉でまず聞かない言い回しですが、その言葉を日常的に使う一止さんと、一止さんを取り巻く、「学士殿」、「男爵」、「一止の細君のハルさん」もどこか浮世離れした人々。


そのファンタジーな一止さんを、「病院」という「リアル」の中で成立させてるバランス感覚がまず凄い。(一止さんはちょっと変わった熱心な医者ということで周囲に受け入れられてる)


そして、「人の死」を扱いながらも暗くなりすぎず、解説の言葉を借りるなら


心に灯火(ともしび)がともるような物語にしていること


「生き死に」はそれだけで物凄くパワーを持ったドラマなので、泣ける○○

(・・・・こういう作品の括りって好きじゃないですが・・・・。思わず泣いてしまうのであって、最初から「泣くこと」を期待するのは何か違う気がする。上手くいえないけど・・・)

って誰か死なせれば泣けるんですよ。


「泣かせること」を狙うんじゃなくて、「結果的にそうなってしまう」のであって大事なのはそこにある物語だと思うんです。

そのドラマチックにいくらでもできる「生死」を扱いながらも、それを押さえて、押さえて・・・、よくこんな暖かい物語にしたなぁ・・・と。


これって凄いことだと思います。


しかもこれがデビュー作。


そして文章が上手い。前に文学賞の選考委員の方のコメントを読んだ時に、


いくら話がまずくても、キラリと光る一文が書ける作家は強い


っていうコメントがあって「なるほど」と思ったんですが、この本にも、私が選考委員だったらこの文だけで賞をあげたくなるかも。

って文があるんですよね。


「こいつは敗北ではない、門出だぞ、学士殿」


っていう男爵の台詞。

この文だけ抜き出したら陳腐かもしれないですが、前の流れ(ここでは多くを語りませんが、この台詞の前に男爵がやってた行為や学士殿の行動、その他もろもろ)があっての「この一文」に鳥肌が立ちました。痺れましたw


他にも数箇所そう思った箇所があります。


いやぁ。凄いわ。


この本は読んで損は無いでしょ。


★★★★★(神様のカルテ2に期待して4.5にしようかとも思いましたが、5を出し渋る理由も無いので・・・)