植物図鑑/有川 浩
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最近、私の中で有川さんムーヴメントがきてますw


この「植物図鑑」も面白かった~音譜


「ベタ甘」だと聞いてたので、どんなものかなぁ・・・。と思いながら手に取ったんですが、思った以上に爽やかな甘さで「キュン」と「こっ恥ずかしい」の間を上手く突いてますw


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「噛みませんしつけのできた良い子です」


その言葉にほだされて(クスッときて?)アパートの前に行き倒れていた青年を拾ったさやか。

名前をイツキと名乗った以外、彼は素性を話さないが、彼は常識ある青年であると同時に、草食系男子でもあった。


ここで言う「草食男子」とは一般的な意味のほかにもう一つw

彼は「植物」、特に野草のことにめちゃめちゃ詳しいのだ。

さらに、家事はできるし、自分で取ってきた野草を使って作る料理は天下一品。


彼の料理とその人柄にトリコになっていくさやか。


彼の気持ちはなかなかわからないが、やがて両思いになる二人。


でも、彼はさやかの前から消えてしまうのだ・・・・


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最初に読み進めていたときの印象は


「縁側でお茶を飲んでるような感じの小説」w


平和で、素朴で、暖かくて、大きな事件は無くても、慎ましやかな二人の世界がそっとよりそってる感じ。


このままこの感じで進んでいくのかな・・・と思いきや、さすが、王道の斜め上を行ってくれる有川さん。

なんて的確な位置に「キュン爆弾」を仕込んでくるのか。


どう考えたってさやかとイツキは両思いになるでしょ。流れ的に。

問題はそこをどう書くか。


鮮やかです。


そして、イツキが出ていってしまった後のさやかの気持ちが切ない。

正直、こういう状況ってよくあるじゃないですか。


読む方だって耐性ができてると思うんです。

「あぁ、はいはい、そうだよね」

っていう・・・。


でも、切なすぎて泣けました。さやかの気持ちが。

そしてなんで泣いたのか自分でわからない・・・。


わからないなりに、なんとか分析すると・・・、多分書きすぎてないんだと思います。さやかの気持ちを。


よく芝居で、


「舞台の上の役者は自分が泣いたらいけない。泣くのはお客さんであって自分じゃない」


ってことを言われるんですが、それと一緒。

「悲しみ」や「怒り」、「喪失」とかって一筋縄じゃいかない感情。

安易に出してしまうと、そこまでになってしまう。


だからその気持ちは自分の中に大きく持っていてあえてそれを押さえて、少し出す。

そうすると見ている人は自分でその気持ちを想像して感情移入してくれる。


いつも怒っている人より、めったに怒らない人怒りを抑えた一言のほうが怖いっていうのと同じ理屈ですね。



・・・・・話がそれました。


とにかく、「書く」のと「書かない」のバランスが絶妙なんだと思います。

そして、前半がおだやかだからこそ、後半の喪失の悲しみが淡々と、でも深い。


この「植物図鑑」は何か大きな事件がおこったりするわけじゃないけど、なぜこんなにドラマチックなのか。


この本、手元にほしい。

名作だと思います。しかも後からじわっとくるタイプの・・・。


「幸せ」の一つの形がここにあります。


★★★★★