「これは貸しだからな」

謎の言葉を残して、債権回収担当の銀行員・坂本が死んだ。死因はアレルギー性ショック。彼の妻・曜子は、かつて伊木の恋人だった。坂本のため、曜子のため、そして何かを失いかけている自分のため、伊木はただ一人、銀行の暗闇に立ち向かう!



ということで、第44回江戸川乱歩賞を受賞した、池井戸潤氏の「果つる底なき」です。2013年の流行語大賞にも選ばれた「倍返し」の「半沢直樹」の原作者でもあります。本作も銀行を舞台とした、ミステリ小説です。


一読した感想は「濃い」なぁ、ということです。直近でラノベや東野圭吾氏のさらっとしたミステリを読んでいたせいもあるのでしょうが、内容が詰まっていて読後に「読んだ」感があります。

ストーリーとしては、謎の言葉を残して不審な死を遂げた坂本の仕事を、主人公の伊木が引き継ぐところから始まります。坂本のノートパソコンの中身を掘り返してみると、非情に几帳面にまとめられており、坂本が優秀なバンカーであったことが描写されます。しかしその中に、几帳面なルールからはずれた奇妙な文字列「109」があることを伊木が発見し、そこから物語は急展開。突然、幾度となく伊木の命が狙われることになります。坂本は、何か触れてはいけないものに触れてしまったのではないか、伊木は坂本の遺志を受け継ぎ、真相を暴く決意をすることになります。


というのが本作の流れ。本格ミステリのようなトリックや斬新な叙述トリックが使われているわけではありませんが、経済ミステリというジャンルの王道になるかもしれません。要は、動機が「金」の殺人を、銀行員みずからが解決するという一ジャンル。まあそんなジャンルがあるのか、知りませんがそのくらい確固としたスタイル性を感じました。


主人公の上司・古河さんはいいキャラクターでした。



オススメ度 ☆☆☆☆


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