資本主義は元々嫌いだった。
理想とされた社会主義にも絶望した。
そんな中でも気が楽な時は少しだけあった。
「歌、歌って」
自分の好きな歌。
あの人にならねだれた。
でも、気付くと知らない歌ばかりになっていた。
本気でやっていると失望するのも早い。
また、新しい「好きなもの」を作らないといけないのか。
それを思うと涙が出た。
人と同じでないにしても感情はあるらしい。
そんな話を、教会の前でするから弟アリオールはアリオールらしいのだとソーカルは思った。
一日経っても、もみの木やひいらぎを初めとして生誕祭の飾り付けがまだある。最後にそれを祝ったのはいつだっただろうか。
自分達の誕生日さえ祝わないのに、そうする理由もない。二月のチョコレートだって適当だ。
「人間がもしもいなかったら世界は平和だって言うけど」
ちょうどそんなことが書いてあった。
「ティラノサウルスやアノマロカリスとか、そういう奴等がいるのに本当に平和なのかな」
お気に入りの、進化のゲームで彼らは何回も滅びている。そういう所が好きだ。
弟は、微かに笑っているような表情を浮かべた。
「神が作り出した悪の最たるものが人間、ということでしょうかね」
アルマジロを悪魔の動物だというのを知ったのは、つい先日家で飼おうと個人輸入してからだ。
「悪の象徴みたいのが何を言ってるのさ」
ソーカルは弟に笑い返した。
教会の庇には、銀色の星々が吊るされ、夕暮れに光を受けてまたたいている。
幾ら試しても手元に来たピンクのアルマジロは、丸くならなかった。
「月が出ていますね……」
前を向いた弟が声を上げた。
右手の、小さな丘の木々の上にくっきりと輝く満月が浮かんでいた。
「あ、本当だ」
近くて、思いの外大きく、模様すら見てとれる程の存在感。
「兎が餅つきしてる……のかな。そういう風にも見えるもんなんだな」
アリオールは答えずにその月に向かって歩みを進めていく。帰路でもあるわけだが。
「寒くなってきたね」
会話はしたいが、何を話したいか分からないことが時々ソーカルにはある。
「紅茶淹れるよ、日曜に買ってきた葉っぱで。そんで……ミルクティーにしよ、あったまるから」
今日は冷たい風もなく、散歩に向いていた。
そんなことは、どうでも良く。
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