北方領土のラジオドラマを作ってみた:採用シナリオ② | 2022年度一般社団法人根室青年会議所

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採用作品②

作品名:
「エイタンノットの赤」

あらすじ:
父が死んだ。母は父との約束を果たせず、ただ泣いている。私に出来る事とはなんだろうか?そして、その約束とは?散文詩的に送る世代を超えた感情ラジオドラマ。

【登場人物】
私・・19歳 根室市在住・父を亡くし母の横に寄り添う
母・・32歳 元島民・根室市在住・伴侶を亡くす
僕・・35歳 現在・根室市在住・今を生きる 

シナリオ(第一項)
(私N)
空が青い そう見えるのは平和だからか?
空が紅い こう見えるのは古人だけだろうか?

隣で母が泣いている
今日、父が亡くなったのだ

それだけではない。
父の悔しさ、あの島へ、その想い
果たせなかった父との約束、私の知らない約束

この街で、この空の下で、この涙の先に海があり
母が交わした遠い約束の地がある

私は・・・
私には・・・
父の想いは解らない
母の悲しみの訳を知らない
でも・・

私「おかあさん・・私・・がんばるわ。」
そう感情のすり替えを行い、笑う私・・作り出した卑屈な笑い・・

母は

母「ありがとう。そう言ってもらえて、やっと笑えるよ・・。」

そう言って、泣いていた。
その姿は・・大切な物を失った悲しみの姿というより・・
大切なものを奪われた【被害者】にみえた。

私に出来る事。
笑う事?

私の慰めの笑いが、母の約束を忘れさせてしまうのだ。

仕方がないと諦める。
力がないと。
明るく前向きにと。
父の想いの陰を薄れさせ、
普通の日常に戻る幸せ。

きっと、誰にも解らないのだ。
解り得ないのだ。

私たちの感情の温度は・・お湯のように冷めていく。

この感情を忘れる怖さが、考える事を放棄する怖さが、
私に言葉を連ねさせる。

父と母の約束の想い。

思い出とは、
想いがないと思い出せない。
思い出とは、過ぎ去る時間が薄れさせていく。
思い出とは・・


このあと、母が交わした約束を聞く。
やはり、あの島の空は赤く見える。

 ×  ×  ×

(僕N)
この散文詩的な手記は、母が亡くなってから数年たった頃に見つけた。
仏壇の奥底に埃被ってしまわれていた所をみると、きっと母も忘れていたのだろう。
そう感じざるを得なかった。

正直なところ、母からじいさんとばあさんの、この約束の話なんて聞いた事がない。

ただ、あの島へ帰る約束なのだったのではないかと、想像する。

今、僕らが見ている空はただの空で、何色でもなく、
今日もこの街は、ちょっとだけ風がうるさいだけだ。

風SE

 僕は娘にこう言う。
「あそこにある島が、じいさんとばあさんの約束の島だ。」

◆評価ポイント
日頃から北方領土返還要求に関わっていると、運動に関わっている元島民の方々と接する機会が多く、同時に積極的に当時の様子や、今の想いを聞く機会も多いし、元島民もまた後継者の育成として積極的に伝えようとしてくれる。一方、全ての元島民が積極的に語る訳ではなく、つらい過去として、子や孫に伝えることを躊躇う人もいれば、突如島を追われ、「今」を生きることに精一杯で、想いを伝えることなく他界された人もいる。祖父・祖母が亡くなった時に、自分が元島民の3世であることをはじめて知る人もいる。
そんな時、残された者として何を考えるか、何をするべきか、この作品を通じて考えていただきたいと思います。