「まだ仲直り出来てないんだね?
仲直りするつもりあるんでしょ?」
居酒屋の掘炬燵席、目の前の翔先輩は、もうもうただただ落ち込んで、運ばれてきたレモンサワーにも口を付けない。
智先輩からそう言われて、少し目を上げた翔先輩は、
「着拒されてる。
謝らせてもくれないんだよ。
どこにいるのかわからないけど、部屋に行ってもいない。
スーツケースが無いところを見ると、相当な覚悟で出て行ったみたいなんだ」
そう言って机に突っ伏した。
雅紀先輩がどこにいるか知っているボクとしては、こんな風に落ち込んでるのを見るのは心が痛む。
智先輩も困ったようにボクの顔を見た。
「明日・・・」
「なんですか?」
烏龍茶を飲みながら問いかければ、
「明日・・・あいつの誕生日なのに・・・お祝いの言葉すら言わせてくれないのかな。
本当にもうだめなのかな、俺たち」
グラスの下に溜まった水を指でMの字を書く翔先輩。
雅紀先輩のM。
「翔くんは相葉ちゃんのこと簡単に諦められるの?」
「諦められるわけない。
一生をかけて雅紀のこと幸せにするつもりでプロポーズしたんだ。
証人まで立ててさ」
「おれらが証人だもんねえ」
そう智先輩が言った時、ボクのモバイルが震える。
画面を見れば【拉致完了】の文字。
「智先輩、OKが出ました。
じゃ、さっさと行きましょうか」
ボクは立ち上がって伝票を持ち、ポカンとしている翔先輩に向かってにこりと笑った。
「ボク、今日は車で来てるんです。
飲んでなかったでしょ?
後で何か奢ってくださいね」
「潤、会計しておくから車回してきて」
「了解しました」
「え?あ、行くってどこに?」
目を白黒させている翔先輩の顔が可笑しくって、智先輩と2人吹き出してしまう。
「ほら、翔くん早く」
「だ、だからどこに」
「雅紀先輩の所に決まってるじゃないですか」
「え!雅紀の所って!
あっ、イッテッ!」
慌てて立ち上がった翔先輩は、掘炬燵だっていうのも忘れて、テーブルに脛を強打した。
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