第三回口頭弁論---その18---結審
2006-07-12 15:16:22
ガチャ……。
原告・被告用のドアが開く。
最初に入ってきたのは川畑だった。
怒っている?
ムカついてる?
いや……ちょっと感じが違う。
なんと言うか……今までとは覇気もオーラも違うのだ。
その表情は「怒っている」とか「血が上ってる」と言うのではなく「無表情」。
「全て出尽くした」感すら漂っていた。
ドサッ……。
やっぱり。
原告席に体を投げ出すように座るその様は……ワタシの読みが間違っていなかった事を裏付けた。
続いて書記官が入廷した。
ヨシヒロさんに小さく小さく会釈をすると……黙って書記官席に着き、脇に抱えていた書類を置いた。
小さな沈黙が廷内に漂う。
後は裁判官を待つばかりだ。
時間にして1分ちょっと……。
だがその時間は実際よりもはるかに長く感じた。
被告席には怒り心頭のヨシヒロさん。
その反対側には抜け殻のような川畑。
そして事務的に書類を眺める書記官。
傍聴席の面々はというと……皆若干背筋を伸ばした感はあるが、差して変わらず。
時々お互いの顔色を覗き込んだ。
ガチャ……。
傍聴席から一番遠い、裁判官用のドアが開く。
無表情で入廷した裁判官。
書記官と同じように……脇に挟んだ書類を机に置くと……
裁判官 「再開します。」
とマイクを確かめながら宣言した次の瞬間だった……。
裁判官 「原告・被告双方とも……主張が出尽くしたようですので、弁論終結とします。
判決言い渡しは2週間後の7月26日午後1時半から……これにて閉廷。」
え?
え???
えええっっっ!!!???
今度はヨシヒロさんに対して、和解の交渉じゃないのか?
そう言えばヘンな感じはしていた。
もし川畑が和解交渉を受け入れたなら……次に個別面談を受けるのはヨシヒロさんのはずだ。
だが実際は、そんな声掛けも呼び出しもなかった。
と……言う事は……「川畑が和解の話をキックした」って事なのか?
いや待て……。
案外……「そもそも和解の話ですらなかった」可能性も無きにしも非ずだ。
ただ……
「ちょっと原告~~~しっかりした主張なり証拠なり揃えてくださいよっ!!
これじゃ裁判にすらならないじゃないですか~~~っ!!
裁判にすらならなかったらアンタ負けですよっ!!」
と……裁判官にお小言を喰らっていただけかもしれない。
それなら川畑のあの「抜け殻無表情」は合点がいく。
なんにせよ舞台の幕はあっけないほど簡単に降ろされた。
これからモノを言うはずだったヨシヒロさんは捨て置かれた。
裁判官は今さっき机の上に置いた書類の束を、もう一度小脇に挟むと……
振り返りもせずに出て行ってしまった。
書記官も片付けの体制に入っている。
ヒデ 「はい終了終了~~~。」
ヒザをポンと叩いて席を立つと……ワタシの後の4人に「ホラ行くぞ」と合図をした。
被告席には唖然のヨシヒロさん……。
だが書記官の片付け具合を見て再確認したのか……ヨシヒロさんも書類を片付け始めた。
タロウ 「じゃあ廊下で待ってるか……。」
芝田 「はい。」
傍聴席を出る。
廊下には誰もいなかった。
ヒデさん達一行は既に帰ったようだ。
3人……長イスに並んで腰を下ろす。
長かった……。
長かったけど……とりあえず終わった。
妙な達成感と充実感と……そして妙な脱力感が体を駆け巡った。
ガチャ……。
原告・被告用のドアが開く。
まずは川畑が退廷である。
「お疲れ川畑……。キミも文字通り『終わった』んだね……。」
目が合うのもなんなので……川畑の足元を見ながら心の中でつぶやいた。
カッ……カッ……。
一歩二歩……川畑が帰路に向かう。
……………。
ん???
靴音が止まった。
そう……これで「終わり」では無かったのだ。
少なくとも……ワタシと川畑にとっては……。
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