第二回口頭弁論---その41---裁判官の質疑 | 【続】ネコ裁判  「隣のネコも訴えられました。」

第二回口頭弁論---その41---裁判官の質疑

2006-06-17 15:38:02


裁判官    「先にワタシからいくつか聞きましょうかね……。」


そして裁判官は始めた。


裁判官    「えっと……まず……被告は、自身の飼いネコが原告所有の車に

         乗っていたトコロを見た事がありますか?」

細川ヨシヒロ 「え……?見た事はありません。」

裁判官    「一度も?」


裁判官は再確認。


細川ヨシヒロ 「ええ……一度も……。」


モミアゲをチリっと触ると……


裁判官    「では被告が事の発端……

         ネコが車に乗ってた事実を知ったのは……どうしてですか?」


改めて質問を投げかけた。


細川ヨシヒロ 「ええそれは……原告の訴状に載っている写真を見て……

         『うちのネコが乗っているな』と認識したんですが……。」

裁判官    「ふむ……。」


何かを書いている。


裁判官    「え……っと……では甲3号証……原告と被告の奥さんの会話記録ですが……

         その中で奥様は『ネコが乗った事実』を認めておりますが……これも御自身の目で

         確認されたわけではなく……『原告からそう申告されたから謝罪も含めそう答えた』という事で

         宜しいでしょうか?」

細川ヨシヒロ 「ええ……そのとおりです……家内とも訴えられてから数回この件について

         話し合いましたが……正しくその会話内に在るとおり……

         電話が掛かってくるまで『その事実』を知りませんでした。」

裁判官    「ふむ……。」


これらは元々「対川畑用」に考えられていた「返答集」だ。

それが裁判官の質疑に対する「返答」として実に上手く応用されている。


芝田君との反復練習の成果だ。

ヨシヒロさんの回答には、少しの迷いもスキも感じられない。


細川ヨシヒロ 「なんと言いますか……ワタシ達の世代ではよくある事なんですが……

         反射的に謝ってしまう事は良くある事なんです。」

裁判官    「……………。」


実に良くある。

何でもとりあえず「謝るクセ」。


商売をしているワタシ達家族なんかは尚更だ。


細川ヨシヒロ 「何かの言葉の最後に『すいません』とか『ごめんなさい』とか付けてしまうのは

         クセのようなものでもあるんです。」

裁判官    「……………。」

細川ヨシヒロ 「今の時代にはそぐわないかもしれませんが……少なくともワタシ達の世代では……

         そうして頭を下げる事で事なきを得て来ました。」

裁判官    「……………。」


確かに……。

少し昔……外国と日本の比較で、どうのこうのとよく言われた時期もあった。


それが現代人の川畑には全く通用していない……。

この裁判の原因(川畑を調子付かせた原因)の一つは、間違いなくコレである気がした。


細川ヨシヒロ 「特に女房は……ぶっきらぼうなワタシと違って一歩下がった性格ですから……。」


その言葉を聞いて……裁判官は小さく笑い……ノートを1ページめくった。


裁判官    「被告はこの飼育ネコを自由に外出できるようにしているとの事ですが……

         で……実際このネコは、どれくらいの頻度で外出しますか?」


裁判官は質問を変えた。


細川ヨシヒロ 「えー……そうですねぇ……一々記録は取っていないので……。」


ヨシヒロさんがアッサリと返答すると裁判官は……

「そりゃあ一々記録取らんわな」とでも言わんばかりにもう一度小さく笑って……


裁判官    「だいたいで良いですよ。」


そう諭した。


細川ヨシヒロ 「だいたい午前中に外出している事が多いです……まぁ……あの……。」


頭を掻きながら……


細川ヨシヒロ 「今はワタシ……退職して……真昼間っから家でゴロゴロしてる事が多いので……

         その頃になるとモモ……あっ!……うちのネコは帰ってくるんですよ。

         だいたい毎日そんなパターンですが……。」


少し恥ずかしそうに答えた。

裁判官はその様子を気にする事無く……


裁判官    「ふむ……なるほど……。」


と……短く答え……隣の司法委員のおじさんと小声で話す。


裁判官    「わかりました……ワタシからは以上です……。」


ノートらしきものをまた一枚めくる。


そして……もう一度司法委員と耳打ちすると……


裁判官    「あ……とりあえず『以上』ですから……また何かあったら聞きますから……。」


言いながら書記官にアイコンタクトを送った。


「ゴホン……」


小さく咳払いをし……川畑の方にイスを傾けると……


裁判官    「えーっと……では原告……被告に質問する事がありましたら……どうぞ始めて下さい。」


と振った。


川畑      「……………。」


振られた川畑……さっきから腕を組んだまま微動だにしていない。


そう……裁判官の問い掛けにも……。

余程さっきの事がトサカに血が登っているのだろうか……。


裁判官    「原告?」


反応が無い川畑に再度裁判官が声を掛けた。


川畑      「あっ!!はいっ!?」

裁判官    「……………アナタの質疑の番ですが……。」


小さく眼光が川畑に刺さる。


川畑      「あっ!!はいはいっ!!」


大慌ての川畑。

机の上のノートを更に大慌てで開き出す。


やっと無事、解凍されたようだ。


タロウ     「……………。」

芝田      「……………。」


傍聴席では苦笑いをするしかなかった。

「そういう事は先にやっとけ。」


心の中でそう突っ込みながら……。




以下次号。