第二回口頭弁論---その34---悪魔の証明 | 【続】ネコ裁判  「隣のネコも訴えられました。」

第二回口頭弁論---その34---悪魔の証明

2006-06-17 15:14:02


えーっと……川畑君……。

そういうのを「悪魔の証明」と言うのだよ。(読者諸兄の受け売り満載)


そもそも立証というものは……

「ある事」に対してするものであって「無い事」にするようには作られていない。(読者諸兄の受け売り満載)


それに「事実の立証責任は原則、原告が証明しなければならない」。(読者諸兄の受け売り満載)


「無い事」を証明する事は「ある事」を証明するよりも労力が極端に大き過ぎる。

何せあらゆる可能性を潰さなければならないのだから……。


例えばこうだ。


「宇宙人はいる。誰も宇宙人の存在を否定できないからだ。」


こう言われたら「無い事」を証明する為には、全ての天体を探索し……

その「無い事」を証明せねばならない。


それは事実上不可能だ。


でも逆に「ある事を証明する」を基準とすれば……

「宇宙人がいるなら、その存在する様子を証拠として提出しろ。」


こうするだけで事足りる。


よって基本、物事の証明は「ある側」が「ある事」を立証すれば済む事と位置付けられている。

これが「悪魔の証明」の概略だ。。(読者諸兄の受け売り満載)

ウンチクはココまで。


タロウ     「……………。」


胸を張りまくる川畑。

出来ればこのまま彫像にしても良いくらいの勢いだ。


だがこのまま眺めていても仕方ない。

せっかくだが終わった後の札幌雪祭りの雪像の如く、切り崩すとしよう。


タロウ     「あのねぇ……原告川畑さん……。」

川畑      「はいっ?なんですかっ?」


さっきとは打って変わって偉そうだ。

声がノビノビしている。

ほんの少しのワタシの沈黙が……ヤツを漬け上がらせる原因になったのかもしれない。


タロウ     「ワタシ一言も……『被告のネコが傷を付けていない』なんて言ってないんですけど。」

川畑      「は?」


まずはカウンターで軽くジャブを顎に当てる。

というか……本当に「言っていない事」を念を押しているだけの話なのだが……。


川畑      「でもアナタは……。」

タロウ     「ええ……確かにワタシは『傷の要因が他にある事』って事実を……

         様々な角度から立証しただけです。

         決して『被告のネコが傷を付けていない』とは言っておりません。」

川畑      「……………。」

タロウ     「……………。」

川畑      「…………意味が判りません……。

         ボクの言っている事と……アナタの言ってる事は、一緒じゃないのですか?」

タロウ     「……………。」


正直どうしよう……。

どう説明しよう……。


というか……コレを説明するってのは……実際「ワタシの仕事」なのかい?

必要な手順なのかい?


そんな疑問が沸々と沸いてきた。

タロウ     「ですからね……傷の責任は『細川さんだけにあらず』って事を……

         今延々と証言したわけです。」

川畑      「……………。」

タロウ     「……………。」

川畑      「では、細川さんのネコが傷を付けていない事の証明は出来ていないって事ですか?」

……………。

今まで何を聞いていた。

そう……その通りだ。

タロウ     「ええ……平たく言えばそう言うことです。」

一言……。

川畑      「そうですかっ!!」

その一言を受け止めると、反射的に返事をする川畑。

ちょっぴり嬉しそうに膨らんでいるので……

タロウ     「ただ……アナタの車の傷の要因が『細川さんのネコ』以外に多数あれば……

         当然『細川さんのネコ』の過失責任は100%ではなくその一部となりますよね。」

川畑      「……………。」

空気を抜いてやった。

タロウ     「ワタシも被告の細川さんも……『該当ネコが傷を付けていない』と

         証明する事は出来ません。」

川畑      「……………。」

タロウ     「と言うか……証明する必要も無いんですけどね……。」

川畑      「どうしてですか?」

……………。

堂々巡りの様子を呈してきた……。

チラリ……目線で裁判官に救いを請うてみる。

モミアゲを触っていた左手を止めると……

裁判官    「あのねぇ……原告……。」

いい具合に割って入ってくれた。


裁判官    「原告は原告の提訴要件に則って、損害に於ける根拠・理由……それと賠償内容を

         確たる主張・証拠によって裏付けて頂ければ良いんですよ……。

         現在の被告証人の主張はですね……原告の損害に於ける根拠が他にもある事を

         主張しているわけでして……そもそも原告がすべき主張とは相容れないモノなんですよ。」

川畑      「はぁ……。」

裁判官    「……とりあえず原告は、証人の証言に於いて『ココが違う』『アソコが違う』という

         主張があれば……その裏付けたる確たる主張・証拠を提示して反論して下さいな。」

川畑      「……………。」

裁判官    「裁判所としては、原告・被告の主張と証拠・書証が出揃った上で……

         それらから導き出される判断を判決としてするわけですから……。」


裁判官……その返答はサービスし過ぎではないのか?

そう思ったその時……裁判官はギロリと今までに無い勢いで川畑を睨むと……


裁判官    「特段……今までの証人の証言部分に、確たる証拠・反証が無いのであれば……

         いいですかね?……原告。」


最後通牒を言い渡した。




川畑      「……………。」

裁判官    「……………。」

川畑      「はい…………わかりました……。」


か細く川畑がそう返答すると……


裁判官    「では……これにて被告証人に対する反対尋問を終了します。」


と少々無理矢理宣言。


うおっ!!

消化不良の感は否めないが……終わったしまったようだ。


もう少しいじりたかったのに……。


裁判官    「えーっと……。」


小さくそう呟くと……向かって右側に座る司法委員のお爺さんとヒソヒソ話を始めた。




以下次号。