第二回口頭弁論---その23---宝刀 | 【続】ネコ裁判  「隣のネコも訴えられました。」

第二回口頭弁論---その23---宝刀

2006-06-17 14:36:19


タロウ     「えー乙4号証の写真6~11はその日……3月26日に、先程申し上げたUMA銀行の

         駐車場内にて、原告川畑さんの車を撮影したモノなんですが……。」


ワタシの言葉を聞くや否や……裁判官は壇上で、書証を開く。

その様子を確認して……こう続けた。


タロウ     「では、その写真と、乙2号証内甲2号証の写真1~6とを比べてみてください。」

裁判官    「……………。」

川畑      「……………。」

裁判官    「……どうやら同じように見えますが?」


うむ……実に理想的な回答が返って来た。


そう……この乙4号証の6~11は……

前回ワタシが訴えられた時「シロクロがつけた」と言われた部分の写真である。


なぜもう一度撮影して、今度は乙4号証として提出したか……。

それには大きな意味があった。


ワタシが何を言おうとしているのか……賢明な読者の皆様ならお気づきであろう……。


そう……アレである。

まずはそこから突いてやろう。


タロウ     「そうです……その通りです。……なにせわざと同じ部分を撮影したのですから……。」

裁判官    「はぁ……で……アナタの主張しようとしている主旨が……よくわからないのですが……。」


少し遠まわしにワタシの背中を突付く裁判官。


今の相手は裁判官……。

原告席には目もくれず……回答を頭の中で必死で組み立てる。


タロウ     「えっと……要するにですね……乙4号証の6~11を撮影した3月26日の時点で……

         原告の車には『被告細川さん所有のネコがつけた以外の傷』が多数あるって事です……。

         しかもそれらは1年以上も前に……原告によっても確認されているんですよ。」

裁判官    「ふむ……。」

タロウ     「そしてこの『一年前の傷』の損害で、川畑さんは平成17年(ハ)1345号事件を提訴し……

         幌部分の修理代金を含む金額をワタシに請求しているわけです。」

裁判官    「……………。」

タロウ     「と……言う事は、ワタシの訴訟を起こした時点で……『原告の車の幌の価値はゼロ』……

         こういう事になりませんかね?」

裁判官    「……………。」


押し黙って聞いている裁判官。


まぁ確かにココで「はいそうです」とも「いいえなりません」とも言えない立場だというのは重々承知だが……

どう思っているのかは気になるところだ。


タロウ     「まぁ『価値がゼロ』とまでは言い過ぎかもしれませんが……幌が損害を被った原因が

         被告のネコ『だけ』のせいとは言えないって事になると思うんですよね……。」


少し弱気に補足など入れてみる。


タロウ     「とりあえずコレが原告の車の傷に関する証言の……まず『一個目』です。」

裁判官    「……………。」


被告席のヨシヒロさんをチラリと見る。

「さぁ次のトスを出してくれ!」の合図目線だ。


ワタシが一人奮闘する様子を見て、さっきの失敗に気が付いたのか……

ヨシヒロさんは素早く合図を受け取ると……


細川ヨシヒロ 「では次に……。」


とトスを出しかけた……その時だった……。




そう……今思えばこの「まず1個目」という言い方がいけなかったのかもしれない。

「まだまだあるんだぞ」というプレッシャーが、川畑を逃げ場のない袋小路に追い詰めたのかもしれない。




川畑      「裁判官っ!!」


座ったまま右手をピンと耳につけて……小学生さながらの理想的な挙手のポーズを取る川畑。


すると続けざまに、こう付け加えた。


川畑      「今の部分に反論がありますっ!!被告証人は、ボクが去年……証人を相手にして

         起こした訴訟以降、車に対して何もしていないように印象付けていますが………。」

裁判官    「原告っっっ!!!!!!!!」


ビクゥゥゥゥッッッ!!!!!


川畑      「はいっっっ!!!」


首輪が外れて今にも飛び出さんばかりの愛犬「川畑」。

それを、一喝して「クゥ~ン」と鎮めてしまった。


そんな表現がピッタリだった。


裁判官    「あのねぇ原告……。」

川畑      「はい……。」


小さく返事をする川畑。


調子に乗りすぎだよ……川畑……。

心の中で呟いた。


だが原因の一端は……さっき裁判官が、中途半端に川畑の「異議あり」を

認めてしまった事にもあるような気がする。


裁判官    「後で証人に対する反対尋問の時間は設けますから……その時にして頂けませんか?」

川畑      「はぁ……ですが……今の証言は………。」


無理矢理さっきの話につなげようとする川畑。

だが裁判官もその空気を感じ取らなかったわけではなかった。


裁判官    「原告っっっ!!!」


さっきよりはほんの少しだけだがやんわりと……裁判官は川畑に鋭い眼光付きで……


裁判官    「あのねぇココは法廷ですっ!!人の話の途中で割り込みあう……

         討論番組じゃないんですからっ!!」


と言い放った。


川畑      「はい……。」

裁判官    「先程も言ったように……

         ちゃんと後で、アナタが被告証人に尋問する時間は設けますからっ!!」

川畑      「はぁ……。」

裁判官    「わかりました???」


駄目押しとばかりに念を押す。


川畑      「……………。」

裁判官    「……………。」

川畑      「……………。」

裁判官    「……………。」

川畑      「……………はい。」


やっと納得したようだ。


川畑      「……ですがですね……………。」

裁判官    「原告っ!」


ダメだったようだ。


裁判官    「これ以上裁判の進行に支障をきたすなら……最悪『退廷』して貰いますよっ!」


ピクンっっっ!!!


本当に短い一言だったが……法廷の真ん中に立っているワタシには、その言葉の「殺気」が感じ取れた。


「裁判官はマジだ」と……。


川畑      「はい……。」


退廷。

この「伝家の宝刀」を聞いて初めて……自分の傍若無人さに気が付いた様子の川畑。


裁判官    「……………。」

川畑      「……………。」

裁判官    「……………。」


暫くの沈黙を……「暗黙の了解」と受け取ったのだろうか……

裁判官はヨシヒロさんに向き直ると……


裁判官    「すいません……再開して下さい。」


と一言呟いた。




以下次号。