第二回口頭弁論---その7---紫煙 | 【続】ネコ裁判  「隣のネコも訴えられました。」

第二回口頭弁論---その7---紫煙

2006-06-17 13:52:06


悪魔はこう呟いた……。


「どうせ後、数分も経てば法廷内で会うんだ。」


ふむ……。


「こっちにはその心構えがある。それがほんの少し早まっただけさ。」


確かに……。


「じゃあ向こうはどうだ?全くの不意打ちじゃないか。今バラしたところで、驚くのは一緒だ。

 たいした違いじゃあない。」


全くそのとおりだ。

……………だが……。


悪魔が反論する。


「それに……ひょっとしたら……お前の出した書証の類で、既にアイツはお前の存在に

 気付いているかもしれない。」


ワタシ達が事務室で手続きをしてから随分と時間が経っている。

もし入れ違いで川畑が法廷に到着しているとしたら……書類に目を通す時間は十二分にある。


「条件としては五分五分だ……。」


そう言われればそうだ……。


「まぁ……よもや喫煙室で会うとは思っていないだろうがな……。」


それはワタシも思わなかった……。


「ホラ……振り向いて挨拶するんだ。」


悪魔は同意を求める。


「ホラっ!」


あ……ああ……。


「堂々としてやれ……堂々と。」


………………………わかった……よしっっっ!!






決心し、振り向こうと思ったその時……悪魔は更に付け加えた……。


「いいか……決してタイミングを間違えるんじゃないぞ!!」


………………ん?


「チャンスは一度きりだ。」


チャンス?


「そうだ……あのタイミングだ。」


あの?

……ああ……なるほど……。





禁断の悪魔の誘い。

せっかくだ……ワタシも心の中でニヤリ顔で頷く。




もう一方の頭の端に、天使が小さく現れた。

小さく小さく現れて……一言だけ……


「笑顔を忘れずにねっっっ!!!」


そう言うと足早に消えた。





ガラスの反射越しに真後ろの川畑をシッカリ確認する。

入室した川畑は、大慌てでカバンを足元に降ろすと……両手で囲ってタバコの火を着ける。


カチッ……カチッ………ボッ!


着火の音を合図に心の中でカウントする。

1……2……3……今だっ!!


クルリと振り返ると……


タロウ     「あれ?川畑さんじゃないですかぁ!?」


と……少し大袈裟に……そして満面の笑みで気付いてみせる。


川畑      「っっっっっ!!!!!」


細い眼を一杯一杯見開くと……火を着けたタバコを振り払うと……


川畑      「ア……ヴォッ!!……ボッ!!……ボバッ!!……フェッ!!!!……トォッッッ!!!!」


思い切りむせた。




ナイスっ!!

ナイスタイミングっ!!!!!

山田っ!!グッジョブっ!!!


そう……このタイミングを悪魔とワタシは待っていたのだっ!!


タバコを吸った事が無い人には説明しづらいが……煙を吸い込んで吐き出すまでの一瞬。

そう……呼吸の止まったこの瞬間に「話しかける」「話し出す」「ビックリする」は御法度なのだ。


この瞬間に「吐く」以外の動作をしようとするとどうなるか……。


ご覧のとおり「むせる」事となる。


しかもこの瞬間……吸い始めて一口目の「むせ」が一番キツイのだ。

川畑      「グヮッ!!……ガッ!!……ジッ!!」


続けてむせる川畑。

だがその視線はワタシをシッカリと捕らえている。


タロウ     「大丈夫ですか?」


せっかくなので気遣ってみた。

ちょっぴりだが、手も差し出してみる。


川畑      「ガハッ……グホッ……ええ……ぇぇ……。」


ワタシの手を「入らぬお節介」とでも言わんばかりに遮りながら……視線は睨みへと変わっている。






落ち着くのを少しだけ待って……


タロウ     「大丈夫ですか?」


と……もう一度問いかける。


川畑      「え……ええ……ええ……大丈夫です……………それより……。」


それより?


川畑      「アナタこんなところで何やってんですかっ!?」




涙目になりながらワタシに喰い掛かる川畑。

コチラは笑いを堪えるのが精一杯。




さて……なんと答えよう……。




以下次号。