第一回口頭弁論---その11---不調 | 【続】ネコ裁判  「隣のネコも訴えられました。」

第一回口頭弁論---その11---不調

2006-05-07 14:43:50


裁判官     「原告……和解と言っても裁判の上での和解ですから、

          キチンとした法的効力を持つものなんですよ。」

川畑      「はぁ……。」

裁判官     「裁判所で和解調書ってのを作りますからね……。

          コレに定められた要項は、判決と同じ効力を持つんですよ。」

川畑      「はぁ……。」


そう……裁判所で取り決められた「和解調書」の内容は、判決と同じ効果がある。

例えば今回の場合、被告が半分の「30万円を支払え」との和解で成立したとして……

もし支払いに応じない場合は、そのまま強制執行の手続きが取れるのだ。


裁判官     「このまま裁判を続けますとね……数回……場合によっては十数回……

          裁判所に足を運ばなきゃならないし……手間も掛けて沢山の書類も

          作んなきゃならないし……何よりも時間的に拘束される事を思ったら……。」

川畑      「……………。」

裁判官     「原告だって長々と訴訟を抱えているってのは、精神的にも

          あまり気持ちのいいものではないでしょう?」

川畑      「……………。」


川畑、だんまり……。


裁判官     「……………。」

川畑      「……………。」

裁判官     「……………。」


膠着状態となってしまった……。


そんな様子を見て、今まで黙って聞いていただけの司法委員が動いた。


書記官にジェスチャーで「マイク入ってない?」のサインを送る。

書記官、再度レコーダーを確認し……「OK」の返サイン。

それを受けて司法委員……裁判官に「ちょっと」の合図。

裁判官頷く。


司法委員、ヨシヒロさんの方を向いて……


司法委員   「あの……ちょっと良いですか?」

川畑      「あ……はい。」

司法委員   「あ……アナタじゃなくてね……。」

川畑      「……………。」


間違えて、ちょっと気まずい川畑。

和解の話題からコッチ……ギリギリ顔だった川畑が「気ハズカシ顔」に変わる。


そんな様子は全く無視で続ける司法委員。


司法委員   「被告……えっと……細川さん……。」

細川ヨシヒロ 「はい……。」


緊張しっぱなしのヨシヒロさん。

まぁ初めての法廷なんてきっと誰でもこんなもんだと思うが……なんと言うか雰囲気に圧されっ放しである。

いつ勢いで流されたっておかしくない。


司法委員   「アナタの答弁書を見せてもらうとですね……

         原告の主張どおり、満額支払う意志は無いようですね。」

細川ヨシヒロ 「ええ……はぁ……。」

司法委員   「まぁ原告の主張を全てお認めになるのでしたら、

         このような答弁書にはならないでしょうし……

         この場ですぐ『請求の承諾』って形になりますわね……。」


そう言って優しく微笑む。


むむむ……。

どうやら川畑に太陽路線が効かないと見るや……

まずはヨシヒロさんから一定の譲歩を引き出しておいて、それから川畑を攻める作戦に変えたようだ。


司法委員   「どうですかねぇ……細川さん……。」


司法委員……60過ぎのおっちゃんの方が、年齢的にもヨシヒロさんと近い。

30前の川畑には、若い裁判官が当たり……定年を迎えたヨシヒロさんには司法委員が当たる。


歳が近ければ威圧感を与える事も無く……逆に侮辱感を与える事も無い。

この方が、相手の譲歩・本音を引き出しやすいだろう。


狙っているのかどうかは分からないが、絶妙のコンビネーションだ。


細川ヨシヒロ 「…………ええ……。」


か細く、どちらにも取れそうな……「ええ」を吐いてしまうヨシヒロさん……。

このまま司法委員に寄り切られてしまうのか?


……と思った刹那。


川畑      「でも乗ってるでしょうっ!!!!!

         被告のネコが乗ってるでしょうがっ!!!!!」


立ち上がり、今にも飛び掛ってきそうな形相の川畑。

突き出された右手はチカラみなぎり……その先端の人差し指は、ヨシヒロさんをブッ刺していた。


裁判官     「っ!!」

書記官     「っ!!」

司法委員   「っ!!」


川畑大注目っ!!!!!

その裁判所陣営の顔からは殺気にも似たオーラが漂っている。


ひとりうろたえるヨシヒロさん。

「俺……どうすりゃいいの?」感が、そこはかとなく感じられる。


裁判官     「原……。」


制止しようとした裁判官。

だが川畑の勢いは止まらない。


川畑      「だいたい被告のネコがボクの車に乗らなかったら、

         こんな問題にはならなかったでしょうっ!!

         乗ったから傷がついたっ!!

         傷がついたから訴えたんですっ!!」


暴走列車はなおも走り続ける。


川畑      「それに本当だったらボディーの方にだって『目に見えない傷』が

         沢山ついているんですよっ!!

         それをあらかじめ見送っているんですっ!!

         示談で減額される覚えは一つもありませんからっ!!!!!!」


………え?

……今、なんて仰いました?


「目に見えない傷」???


……それって……。


川畑      「人の物を壊したら、責任持って直すのが大人のする事でしょうっ!!

         それを『ネコが乗っていた事は認めるが傷をつけたかどうかはわからない』ですって!?

         言い逃れもいい加減にしてくださいよっ!!!!!!!!」

細川ヨシヒロ 「……………。」


まくし立てられて、目線をどこにやっていいかわからない様子のヨシヒロさん……。


裁判官     「……………。」

書記官     「……………。」

司法委員   「……………。」


それとは別の意味でダンマリの裁判所陣営……。


一通り言いたい事が終わると……

川畑は得意の唇フルフルのまま着席した。


裁判官     「……………。」

書記官     「……………。」

司法委員   「……………。」


静まる廷内。

誰も何も言おうとしない……。


暫くの沈黙の後……川畑が落ち着くのを待っていたかのように司法委員が……


司法委員   「もう……。」


と……怒りと諦めのこもった小声で裁判官に問いかける。


裁判官     「ええ……。」


それに小さく答える裁判官。

だが、その目ヂカラは怒りの度合いを色濃く表していた。


裁判官     「和解は不調に終わりましたっ!!!!……………再開しますっ!!!!!

          書記官テープ入れて。」




以下次号……「第一回口頭弁論---その12---閉廷」