第一回口頭弁論---その2---準備 | 【続】ネコ裁判  「隣のネコも訴えられました。」

第一回口頭弁論---その2---準備

2006-05-07 14:00:08


黒のスーツに白いワイシャツ……ネクタイは……無い。

髪型はムースを付けてちょっぴりツンツクツンに立ててある。


川畑だ。


その後をさっきの書記官が追うように入って来た。


「あれ?被告は?まさか……。」


……そう思った瞬間……書記官はフッと後ろを確認すると……

踵を返して、今入って来た扉から半身廊下を覗き込んでキョロキョロ……そして手招きをする。


焦げ茶のズボンに濃いグレーの上着……白いワイシャツに紺のネクタイ。

法廷内の様子を右左……不安そうにキョロキョロと伺い恐る恐る入ってくる。


その所作は会ったことの無い芝田君でも、誰なのか一目瞭然だった。


「あの人が被告の細川さんか……。」


そしてその所作は細川さんが、このような場には不慣れで苦手である事を多く語っていた。


対する川畑はというと……どことなくドッシリと構えている。

裁判は今回が初めてでは無い事は間違い無いのだから……場数から醸し出す余裕なのか……。


被告:細川さんは書記官に促されて、傍聴席から見て右側の被告席に案内される。


細川      「……どちらに座ればいいですか?」
書記官     「どちらでも結構ですよ。」


被告席・原告席共に長机にイスが2つ用意されている。

原告・被告が必ずしも一人とは限らない。

それに弁護士や代理人が付く場合もあるのだ。


細川さんは少し迷った後……傍聴席側のイスに座った。


傍ら川畑はというと……既に席についていた。

自分の持って来た訴状やら書類やら……送られてきた答弁書などを手際よく並べている。


書記官はなにやら小声で細川さんに指示をすると、

本来の自分の職務に戻るかのように書記官席に着いた。

川畑      「あ……あの……。」


川畑が、一仕事終わった様子の書記官に尋ねる。


書記官     「はい?……なにか?」

川畑      「あの……ボク……少額訴訟で申し込んだはずですが……。」

書記官     「ああ……それですか……。」


そう言って川畑の方を見ると……


書記官     「少額訴訟は双方の合意があって初めて成立するんです。」

川畑      「はぁ……。」

書記官     「被告から送られてきた答弁書に

          『小額訴訟ではなく、通常手続により審理及び裁判を希望します。』
          って項目にチェックが入っているでしょ?」

川畑      「え?」


慌てて机の上の書類の中から答弁書を引っ張り出し確認する。


川畑      「え……ええ……。」

書記官     「被告が通常訴訟を希望してますので、通常訴訟となります。」

川畑      「……そうなんですか……………。」

書記官     「ええ……そういう事なんです。」

川畑      「…………………………………。」


書記官は又、席に戻って作業を始めた。


川畑      「……………………………チッ……。」


え?

今、舌打ちしました?


舌打ちしましたか?


そして一瞬被告席の細川さんを睨む。


だが細川さんが机の上の準備に勤しんでいるのを確認すると……

川畑ももう一度自分の書類を少し不機嫌そうにいじる。




以下次号……「第一回口頭弁論---その3---開廷」