昔話---その2--- | 【続】ネコ裁判  「隣のネコも訴えられました。」

昔話---その2---

それから一週間程経った夕食時だった。


2002-01-20 19:09:19


アヤノ     「ねぇ……どうして保母さんになろうと思ったの?」


アヤノは何気なくモモコに聞いた。

そう言えば「聞いた事無かったな」程の軽い気持ちだった。


モモコ     「え……あ……はぁ……いやぁ……。」


不意を突かれた質問に、モモコは一瞬戸惑う。

箸を止め、アヤノとヨシヒロの顔をキョロキョロと伺う。


モモコ     「いやさ……ホラっ!!ワタシって子供好きじゃない!?

         それに今は共働きの夫婦が多いしさ……。きっと就職先は多いわよっ!!」

アヤノ     「ふうん。」


戸惑った様子とは裏腹に、あまりにもありきたりの返答だったので……アヤノも「ふうん」と言うしかなかった。


会話はそれで途切れたまま……夕食は終わった。


別に険悪なムードになったわけじゃない。

元々細川家では、モモコが話をしなければ静かな事が多いのだ。


父ヨシヒロは機械メーカーの下請部品の会社に勤めている。

機械と向き合う事が多かったせいか……元来の性格もあってか……口数は少なかった。


母アヤノも聞かれれば話すが、自分から話をするタイプではなかった。

だが会話が嫌いというわけではない。

静かにする事を美徳としているだけだった。




いつもなら、夕食以降はモモコの独演場となる。

……と言うか、モモコが家にいれば延々と独演場となるのが常だった。


誰も聞いていないのに話をし……誰も答えていないのに返答する。

細川家唯一のムードメーカーだ。


そのモモコが夕食のアヤノの質問以来、無口になっている。


夕食の後も、居間でいつものように飲んでいるヨシヒロの前に座るが……

どうにも落ち着きが悪いらしい。


いつもは手伝わない夕食の片付けをしに、台所に居所も無く突っ立っている。


アヤノ     「ん……?どうしたの?モモコ?」

モモコ     「あ……うん……いやぁ……。」


茶碗を洗うアヤノの横にピットリと寄り添うモモコ。


モモコ     「さっきの話なんだけどさぁ……。」

アヤノ     「さっきの?」

モモコ     「ホラッ!どうして保母さんに……って話。」

アヤノ     「ああ……。」


アヤノは既に忘れてしまっていた。

そう、留めておくほどの話でもなかったのだろう。


だがモモコにはその質問が引っ掛かっていたらしい。


アヤノ     「それがどうしたの?」

モモコ     「あ……うん……それなんだけどさぁ……。」

アヤノ     「なに?」

モモコ     「お母さんだけには聞いて欲しくってさぁ……。」


そう言うと居間のヨシヒロを気にしながら話し出した。


モモコ     「ホラさ……お父さんもお母さんも……ワタシを生んだ時、40前後だったでしょ。」

アヤノ     「そうだけど?」

モモコ     「ワタシが今、18で……お父さん来年定年でしょ。」

アヤノ     「そうね……。」

モモコ     「ワタシがお母さんみたいに40で子供を生んだら……

         お母さん、おばあちゃんになる時80だよ。」

アヤノ     「そうね……で……それがどうしたの?」

モモコ     「そう……だったらね……ワタシが早く結婚して、早く子供を生もうかとっ!!」


それが保母さんとどういう関係が?

一瞬アヤノは頭の中で考えたが……その答えは見えなかった。


モモコ     「そうっ!それでねっ!!」


問わなくても、モモコは勝手に話し出す。


モモコ     「例えばワタシが20歳で結婚したとしてよっ!

         そしたらさ……社会経験も育児経験も未熟じゃない?

         だから保母さんの勉強でもしといたら……多少は役に立つかな?……なんて思って……。」


モモコは続ける。


モモコ     「ミチコおばさんなんて、お父さんより5つも年下なのに二人も孫がいるでしょ。」

アヤノ     「ええ……そうねぇ……。」

モモコ     「時々、法事とか親戚が集まる時があるでしょ。

         その時お父さんって、ぶっきら棒にしてるけど……ミチコおばさんの孫を見る時は

         嬉しそうにしてるんだよねぇ……。」

アヤノは皿を洗う手を止めて聞き入った。


モモコ     「あんな嬉しそうなお父さんの顔を見たらさぁ……。

         早く本当の孫の顔を見せてあげたくなるじゃないっ!」


本当に保育・福祉科を目指す理由がそうならば……なんと稚拙な理由だろう。

だが、そんな理由を恥ずかしそうに話すモモコの身振りに……

アヤノは本心で思っている事を確信した。


モモコ     「でもっ!!あの……その前に相手を探さなきゃなんないけどっ!!」


思っている全ての理由をぶちまけたモモコは……そう言ってその場を濁した。


モモコ     「ちなみにね……上手くやれば介護の資格も取れるんだ。

         結婚できなかったら、お父さんとお母さんを看なくちゃならないでしょ?」


照れながら言い訳のように取り繕うモモコを見て、アヤノはやさしい娘を実感した。





ネットの広告費って……「ちょっと変わったアメブロさんの事情」

以下次号……「昔話---その3---」