指示 | 【続】ネコ裁判  「隣のネコも訴えられました。」

指示

2006-03-24 21:58:22


ユミコ     「ちょっとアレ取ってごらん。」


とイチコの寝ているベッドを指差す。


タロウ     「えっ!?イチコ起こすの?」

ユミコ     「バカッ!!!今から起こしたらどうなんのよっ!!!午前様までパーティーだよっ!!!」


確かに……。

9時前に寝たイチコを今起こしたら、間違いなくパーティーだ。

せっかく無理矢理使い切ったはずの電池が、充電マックス完了状態だ。


ユミコ     「冗談でもそんな事言うもんじゃないでしょっ!!もし起こしたらアンタを叩き殺すよっ!!」


いや……子供起こしちゃったくらいで叩き殺されちゃったら……ワタシは死因になんと書かれるのだろう?

またもしそれで本当に死んじゃったら、それこそ通夜で寝られないと思うのだが……。


と……ここまで思って口に出掛けたが、火に油なので飲み込んだ。


ユミコ     「イチコじゃなくて、イチコの寝ているベッドの下っ!!」

タロウ     「んあ?」


力強く再々度指差す先にはプラスチックの衣装ケースが見える。


ズルズルと引っ張り出してみるとそれは、手芸セット。

なんだ……コレの事だったのか……。


タロウ     「どうするのよ?コレ。」

ユミコ     「まぁまぁいいから……。」


と刺繍糸の束を取り出す。


先程のブチキレ具合はどこへやら……ニコニコしながら……


ユミコ     「やっぱ赤がいいかなー。」


と赤い糸を引っ張り出し……。


ユミコ     「それともピンクかなー。」


とピンクの糸を引っ張り出す。


ユミコ     「よしっ!!赤とピンクのコラボレーションで行こうっ!!」


と独りで納得。


タロウ     「なにすんの?」

ユミコ     「まぁ見てなさい。」


そう言うと靴下を脱ぎ出した。


ユミコ     「どうだったかなぁ……えっと……こうして……確か……ああ……そうそうこうだ。」


足の指に器用にヒモを引っ掛けて、なにやら試行錯誤している。


ユミコ     「ああ……タロちゃん……今のうちに『お手紙』書いちゃいなさいよ。」


と顔を上げもせず話しかける。


タロウ     「手紙???……手紙って?」

ユミコ     「うん手紙。……白ネコの飼い主さんに渡す手紙よ。」

タロウ     「何をどう?」

ユミコ     「ホントに通じないわねぇ……。」


と溜め息……。


ユミコ     「連絡先とか名前とか用件とか書けばいいでしょ。」


……と。


タロウ     「ああ……わかった。」


とホントは良く分からないのだが、引き出しから便箋と封筒を引っ張り出すと……。


ユミコ     「ホント、タロちゃんて……頭良いのか悪いのかわかんないよねぇ……。」


と、もう一つ溜め息。


ユミコ     「そんな大きな手紙を、ネコが運べると思ってるの?」

タロウ     「いや……お前が手紙書けって言うからさ……。」

ユミコ     「電話の横のメモ用紙っ!!それに必要事項だけ書けばいいのよっ!!」


と再度ブチキレる。


「だったらそれは手紙じゃなくてメモだろう!!」
……と逆ギレしようかと思ったがやめた。


逆々ギレされてもかなわない。

なのでとりあえずおとなしく聞いておく。


ユミコ     「間違っても『拝啓』とか『前略』とか……ましてや『時候』とか書かないでよっ!!」


まだ収まらない様子で釘を刺す。

いや……そこまで言われなくてもわかる……。


言われるままにハガキの半分程のメモ用紙に


連絡下さい:駅前の山田屋 山田タロウ TEL 012-3456-3456


と書いた。


この一行で済むのなら、間違いなく手紙ではなくメモだ。

心の中で何回もツッコミを入れる。


タロウ     「どうよ?こんな感じで。」


目の前に突きつけたメモを見て一言。


ユミコ     「……うはぁ……ダメダメ……。」

タロウ     「なにがよ?」




以下次号……「首輪」