ねこまにのブログ

ユウリ:フェスタでは大好評だった。

    まぁ、これらの人々が真夏の人柄なのか、

    単に価格の安さなのかはわからんがな。

小萌:にゃー。わいばーんさんはちょっと素直じゃないにゃん。

ユウリ:そうか?

小萌:それに、ユウリちゃんだったんだにゃー。なんかすごく・・・

ユウリ:?

小萌:ぷりちーな仔が多いウチのふぁみりーで、

    ユウリちゃんみたいな仔はなんかめずらしいにゃー。

ユウリ:ふむ。

もともと私は主たちが望んで連れて来られた者ではないしな。

小萌:そうなのにゃー?

ユウリ:・・・・・・

小萌:にゃー、へんなこときいちゃたにゃ?

ユウリ:いや、話したくないわけじゃない。それに、

誰かに聞いてもらいたいというのもある。


 数年前のことだ。


 私はある程度の時間を殻の中で過ごしていた。

 卵・・・だったのだろうか。

 私は、両親が愛を育んで生まれたのではない。

 「ラボ」という場所で、人工的に生み出された。


 私に意識が生まれた時、肉体は生まれてはいなかった。

 殻の中には羊水とマナが満ち、肉体を構成している最中だった。


 すぐに肉体も完成した。

 殻の外の音も聞こえるようになった。

 声も、出せるかもしれない。


 外に出たい。


 「ガ・・・ソト・・・ニ・・・」 (少佐風の声を妄想汁

 

 意に反して私の喉から絞り出された声は高かった。

 その声に呼応してか、外から私より低めの声がした。


 『なんだなんだ、予定よりまだ早えぇぞ?お~い、ご主人~!』


 殻を隔てた対面に、楕円形の影が一つ。

 

 『早かったな~。中身は何かな~。おいサボ、聞いとけ』

 『あーわかった。・・・よし、中のやつ、聞こえるな?』


 まだうまく話せないが、


 「キコえ、ル」

 『よし、聞くからゆっくり答えろよ。まずは・・・』


 質問にいくつか答えていく。

 翼はあるか。ウロコはあるか。尻尾はあるか。毛が生えているか。

 と、質問をしている者の声とは違う者の声が聞こえた。


 『ッチ、またワイバーンか。★ネコできねーかな。サボお前が面倒みて

おけよ?』


 声の主の足音が離れていく。


 『おい!また放置かよ!』


 会話を聞けばわかる。

 私は、望まれた子ではなかった。


 「ワタシ、は・・・イラナい・・・の、カ?」


 なぜだろう、声がひどく掠れていた。


 『何言ってんだ!生まれちゃいけない奴がいるもんか!』


 なぜだろう、声の主は怒っていた。


 『お前もいちいち気にすんじゃねぇ!』


 その影の主もドスドスと音を立てて行ってしまった。



 いくばくかの時間が過ぎた。

 155600秒くらいだろうか。


 何をする気もおきず、殻に包まれたこの身では何処へも往けず。

 過ぎる時をただ無意識に数えるだけ。


 『おい、起きてるか?』


 外から殻をコンコン叩かれる。


 「起きてる」


 掠れた声ではなくなっていた。

 生まれた時も少し戸惑ったのだが、更に今回は自分でも困惑した。

 殻の中は闇とはいえ、ずっとその中にいれば目も慣れてくる。

 私がその目で見た自分の姿は、本能に刻まれた「竜」そのものだ。

 その私の声があれほど高いとは。


 『お、お前メスだったのかよ』


 メスとはなんだ。竜の種族だろうか。


 「私は、メスなのか?」

 『そうだな、で、俺はオスってことだ』

 「貴方はオスなのか」

 『オスっていうか、ファイアーダンサーだけどな』

 「貴方はオスではないのか?ファイアーダンサーなのか?」

 『あ・・・めんどくせーから、俺のことは火男でおk』

 「わかった。では私のことはメスと呼んでくれ」

 『ちょ、待てや!俺、どんな鬼畜!?』

 「私は、メスなのだろう?」

 『・・・じゃあおまえは今日からユウリだ。わかったな』

 「ユウリか、わかった」



 それから火男は9000秒ごとに私を訪れるようになった。

 殻ごしの会話だったが、火男の話は私の感情を開いていった。


 別に殻の外に出れなくてもいい。

 必要のない子でも構わない。

 火男と話していられれば良かった。


 『なぁ、あと3日位でユウリも外に出るんだぜ?』

 「私は、ここでいい」

 『バーカ、こんな中にいて何が楽しいんだ』


 私は、ここにいるだけで良かったんだ。

 火男と話しているだけで。


 『それにな、丁度星祭が始まんだよ』

 「ホシマツリ?」

 『ああ、出店もあるしイベントもある。俺が連れてってやるよ』

 「私を、か?」

 『他に誰がいんだw』

 「ふふっ、そうだな」


 それから9000秒、火男は来なかった。


 さらに9000秒が過ぎた。


 火男になにかあったのだろうか。

 嫌だ。

 火男と話したい。

 火男と祭に行きたい。


 火男に、会いたい。


 9000秒が過ぎた。


 既に聞き慣れた足音がした。


 「火男、どうしたんだ?大丈夫か?」

 『・・・ああ』

 「ばっ・・・」


 バカか!?と、言ってしまいそうになる。

 どう考えても火男の態度はおかしい。

 この殻さえなければ、火男に触れられる。慰めてやることもできる。


 わたしと火男は何も話さなかった。

 3000秒が過ぎて、

 3000秒が過ぎた。

 

 「火男、本当に大丈夫なのか」


 たっぷり3000秒。火男は殻を撫ぜる。


 『ごめんな』

 「何故、謝るんだ」

 『ごめん。マジごめんな。ホントにごめんな』

 「何故・・・」


 それだけだった。


 それから183200秒後、私は殻から出ることになった。


 

 殻から出た私は動くことができなかった。

 精神的なものではない。

 いままで水に漬かっていたのだ。筋肉が衰えてしまっているのは

しょうがなかった。


 「あ・・・」

 「シッ、黙ってろ」


 ちょっとチクチクする手がわたしを持ち上げた。

 軽々と持ち上げられた私は、すごい速さで運ばれる。

 街を抜け、門をくぐり、野山を駆ける。


 最初に目にしたのは赤と黒の縞々の物体。


 「あん?なんだ?」


 翼のカギ爪で赤いボディに触れる。


 「火男、か?」


 彼が立ち止まる。


 「そうだ。俺が火男だ。惚れたか?」




 今回はちょっと真面目な文でした。

 わたしゃハッピーエンドはあまり好きではないです。