曇りひとつないクリスタルグラスのローテブルの上に精密なカッテングの施されたコリンズグラスがひとつ、ぽつんと置かれている。中身の飲み干された後のグラスの底には液体が薄っすらと残っている。
そして、ソファーにも茫然と取り残されたらしい男がひとり。
男の目の前のグラス、その中身が鮮やかな緑色で満たされていた頃までは至福の時間が……確かにあったのだ。満たされて噛み締めていた筈なのに。




蓮の為にわざわざ空港まで車で迎えに来てくれた彼の有能なるマネージャー。
スケジュールの調整から負傷した蓮に必要だろう細々とした品まで用意してくれて……本当に頭が下がる思いだ。それは違いようもない事実ではあるのだけれど、社の顔が引き攣るようなキュラっとした輝く笑顔で追い立てるようにこの部屋から帰してしまったのは、「じゃ、俺帰るから。」その台詞の裏にあとは若いふたりで……とでも言ってそうなによによした空気を感じてしまったから……だけではないかもしれない。
だって、蓮の愛しい愛しいかわいい恋人のキョーコはシャイな国民性のこの国でも取り分けて恥ずかしがり屋な純真乙女なのである。
玄関先で捕獲して熱烈にハグはしたけれど……例えそれがふたりの仲を応援してくれている社であれど、第三者の目がある所でそれ以上の接触を求めようものならきっと真っ赤になってその恐るべき秘められた身体能力でもって脱兎の如く逃走されてしまうだろう?足の捻挫のせいで追いかける事も難しいのに。
2週間と予定外の負傷により2日も離れ離れにされていた恋人のともにやっと帰って来たのだ……真っ赤な顔も怯えた表情でさえかわいいけど、やっぱり笑顔でそばにいてほしいし、キスだってしたいじゃないかっ!!
社が流石に嘆くかもしれないが、お邪魔虫な存在がいなくなった自宅。ソファーの隣に座ってもらったキョーコに廊下から拾ってきた、蓮が厳選したキョーコに似合うだろう小物類から彼女のラブミー部仲間への袖の下にとお揃いで3人分入手したロクシタンの限定コスメや定番のバターやトリュフ塩や菓子類からパリの街角の風景を切り取ったポートレートの絵はがきなどなどのお土産を渡して
「もう!買ってき過ぎです!お土産は片手ぶんまでって約束したじゃないですか!」
「うん、だからちゃんと片手で持って帰ってこれる文だけにしたよ?」
「普通、片手ぶんって言ったら5つまでなんです!!」
なんて片手を開いてお小言を言う、そんなキョーコもかわいいなぁなんて蓮はその端麗なる顔をデロデロに蕩かせていたのだ。
「そんな事言ってももう返しに行けないし。ほら、これなんてキョーコちゃんに似合うと思うよ?」
どうやってもキョーコに受け取ってもらおうと決めていた本命お土産な、小さな花と蔓のデザインの小粒のラピスラズリ飾りのピンキーリング。
左手の小指のリングを眺めて、ふにゃりと笑うキョーコがかわいくって……将来、絶対の絶対にその宝石と同じ愛の石言葉を持つフローレスな指輪をキョーコちゃんの左手の薬指に贈るんだ!!と、元から揺るがしようのなかった未来予想図を頭に浮かべてみたりなんてしては、その栗色の髪や上目遣いな目もとやほんのりと染まった頬に啄ばむみたいなキスを落として……
やっと、ずっとずぅぅっっと触れたくて触れたくてたまらなかった恋人の唇に触れて、重ね擦り合わせてやわやわと食み「こぉ……んっ……ふぁ……」なんてどうしようもなくかわいい声を零すその中毒性の高い甘さを、もっと深く味わおうと抱き寄せるのに…………
グラスファイバーのギブスと包帯で固定された利き手が憎い。
ぎゅうっと抱きしめて恋人のぬくもりを堪能したいのに……
そのギブスが触れるのが気になるのか「ダメですよ?」なんて煽ってるのかって蓮が思わず無表情になりそうにかわいい顔で言う恋人は、蓮の手首を労わるのだと抱きしめさせてくれないし、いつものように膝の上に抱き寄せて座ってもらおうとしても足だって捻挫してるんですからダメです!なんて言っては、するすると蓮の腕の中から逃げて行ってしまうのだ。その上
「社長からお世話役を依頼されてるんですから!」
と、パリからのフライト前に受け取ったメールにも書いてあったそんな台詞を蓮に言い聞かせるのだった。




やっとの思いで帰って来たのに、ゆっくりと腕の中にいてくれない恋人。
過去にダメダメです-10点スタンプの追加なんて捻くれた事をしでかして彼女に嫌な男認定を食らう原因の事件を彷彿とさせるみたいな依頼というフレーズ。
正直なところ……はっきり言って、おもしろくない。




どうせコーンのことだから機内食なんてろくに食べてないんですよね?なんて、じとりと目線をなげて
「もう夜も遅いですから……今夜はこのスムージーだけでも飲んじゃってください。」
と、キッチンで製作して来てくれたらしい緑色のとろみのある液体で満たされたコップを差し出す恋人へ……
本来の自分の、久遠・ヒズリの姿のままでいるせいか、完璧温厚紳士な敦賀蓮の上っ面の名残りさえなくなり気味のその男は言ったのだ。



「…………やだ。」




彼の幼き頃のシビアな食生活により破壊されたかに思えた食欲中枢、それが唯一食べたいと求めるキョーコの手づくり。
蓮の為にキョーコが作ってくれた冷たくひえたスムージーのグラスから、まるで子どもみたいにプイッと顔を横に背けてながら。




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文書くどくって文字数多いのに、話の内容が遅々として進みませぬ。


あれ?
予定より長くなるの?
読んでる方はおもいろいのかしら、これ?
いろいろ端折ってでも纏めるべきなのかもねぃ。
_(:3 」∠)_



ついでに、猫木、高校受験の前日に利き手の小指を剥離骨折した経験しかございませんので……敦賀さんの骨折なさった手首の処置等なんかいろいろおかしくてもお許しをば。
あと、パリも行ったことナッシングだからお土産とかもてけとーですのよ。
(((╹д╹;)))


↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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