都内でも有数な高級マンション備え付けなんて慣れない駐車場のスペースに停めた愛車のトランクからこれまた高級ブランドの大型のキャリーケースを引っ張り出した社は、後部座席から降りようとしている男へ「大丈夫か?」と、そう気遣いの言葉を投げるのだった。




『ピンポーーーン』
と、まぁ実際のところはそんな庶民的な音ではないのだが……室内にいるだろう少女へと、帰宅を知らせるために高層階ブチ抜きワンフロアなその一室ドアチャイムを鳴らしてから、既に隣に立つ男の手でカードキーによって開錠されていたドアを開ける社の心持ち俯けた顔は堪えきれぬニヨニヨとした笑いが浮かんでしまっている。
まぁ、それも仕方がないのかもしれない。
なにせ……『お兄ちゃん』を自称する社が成田までわざわざ車で迎えに向かったのにその車中で隠そうともせずにずんぐりとふて腐れた空気を醸し出させていた男が、上層へ向かうエレベーターの鉄箱の中あたりからそわそわとした気配を手に取れそうなほどにありありと滲ませていたのものだったのだから。
開いた扉を抑えて男が室内へ移動するのを待ち、その後廊下に残されていたキャリーケースを転がして移動させていた社の耳に、パタパタと聞こえて来るスリッパの足音と「キョーコちゃん」と蕩けそうな程に嬉しそうで甘い低い声が聞こえて来ていた。
声に釣られるように視線を上げれば、玄関には急いで脱ぎましたと主張するみたいに不揃いなままの大きな靴と廊下に点々と落とされたらしいキョーコへのお土産たちなショップバックと杖。
その数歩先には「ちょっ……だめです…」なんてわたわたと慌てた気配の女の子を腕の中にぎゅぅぅぅっと抱き締めて、その栗色の髪の頭にぐりぐりと懐いている男。
あっ、すりすりグイグイ勢いよくなつき過ぎた男の頭からカムフラージュ用に被っていたキャップが外れて落ちて、見事なサラサラキューティクルを誇る金色の髪が晒されるが、そんなのは最早御構い無しのようだ。ついでに付け加えるならば、先ほどまで着用されていたサングラスは折角のじかで直で生なキョーコちゃんを堪能するのに邪魔!との理由からこのフロアに辿り着いたエレベーターを出たあたりでとっくのとうにその類稀なる美貌を誇る顔から外されていた。
ブンブンと全力主張する犬の尻尾の幻覚が見えそうなその後ろ姿へ
「蓮、荷物、奥の部屋に入れておくからな。」
と、返事も期待してないようなひと声を掛けるだけ掛けてから、有能なるマネージャーはキャリーケースを手に廊下を進む。
「あ、社さん、私が運びますよ!」
なんて未だに捕獲されたままのキョーコから言われるが
「いや、結構重たいから俺がやっとくよ。キョーコちゃんはそいつをよろしくね。」
男の腕の中で、恥じらいに頬を赤らめてもがいている天然記念物レベルの純真乙女なキョーコ。
その細い腰に絡みつく男の手付き、流石抱かれたい男NO.1とでも言おうか……ただ抱き寄せてその存在を確かめるように撫でているだけなのに、そこはかとなくどことなくどうしてもエロ臭い。なんて、声には出せない感想を抱いた社は勝手知ったる蓮の自宅廊下を進み、生活感の余りない奥のひと部屋へキャリーケースを運び込む。




服のクリーニングや荷物の整理なんかは後で蓮が自分でやるかキョーコちゃんがやってくれるだろうと、とりあえず部屋の隅にキャリーケースを置いた社がリビングルームへと足を運んでみると、どうやらキョーコは深刻なキョーコ不足だった男をひと時とは言えどもリビングルームのソファーへと誘導し待機させることに成功したらしく
「社さん、すいません。ありがとうございました。」
と、何度見ても派手派手キラキラだなぁ……なんて思ってしまうリアル王子様じみた金髪碧眼な蓮が社に向かってペコリと頭を下げる。
気にするなと少し笑ってみせた社は、その蓮の対面のソファーへと腰を掛けた。
間に置かれたローテーブルの上には、キョーコが淹れたのだろう香りの良いコーヒーがふたつ。
「明後日の夜にミス・ウッズが髪色を『敦賀蓮』に染めに来てくれる予定で、それまではオフ。それからの仕事もスケジュールに変更があったら連絡するからな。」
やむ終えずにいろいろと組み替えざるを得なくなったぎゅうぎゅうに詰まっていた人気俳優のスケジュール。
すなまそうに眉を落とす、そんな担当俳優へと社は
「とにかく、安静にな。」
と、気を落とすなよと釘を刺さすように今一度年を押す台詞を残して飲み終わったコーヒーカップをキッチンへと運ぶ。





宝の持ち腐れ三昧だった家主を差し置いて、もはや彼女の城と言っても過言ではないだろうキッチンで何やら作業中だったキョーコへ、社は「ごちそうさまでした。」と、飲み終わったコーヒーのカップをシンクへ置くと片手に持っていた鞄からごそごそとビニール袋を取り出して差し出す。
「キョーコちゃん、これ、テーピングテープとか湿布とか入ってるから。あと……熱が高いようだったらこっちの薬飲ませてやってくれる?」
必要だろうそれらを渡しながら、今も時差の疲れもあるせいか、今も少し熱があるのかもしれない。ごめんね、キョーコちゃんも仕事があるのにあいつの事よろしく頼むよ。そう続ける社へと、キョーコは
「大丈夫です。お任せください!」
と、にっこりと答えた。




「社長からも、敦賀さんのお世話役を依頼されてますから!!」
と、太鼓判を押すかのようにその胸を叩いて。





その漏れ聞こえる一言が、リビングルームのソファーで座る蓮のイラつきポイントをガリガリと刺激しているなど……微塵も思いもせずに。




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三人称にすると文書がくっどい!!
猫木は、このくどさ……我ながら嫌いじゃないんですが、読んでる方はどうなんざましょ?
ァ,、'`( ꒪Д꒪),、'`'`,、←くどくて読みにくいと言われつも仕方ない自覚満載。



| 壁 |д・)……しょっぱなから開き直って前編とか付けずに、ナンバリングにしといて良かったと心から思い知りました。前中後編な3話で纏められる気配のカケラもないね☆笑



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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