いや、もう……何がなんだかわかりません。
 
 
 
 
「キョーコちゃーん、お邪魔するよー?……って、あれ?この子、誰だろう?」
そんな言葉と同時に開かれた扉。振り向いた視界の先にあったのは、そびえ立つ長い脚がおふたり分。
いつも以上に……それこそ真上を見る勢いで首が痛くなりそうなくらいに見上げなければお顔まで目に入らないほどに大きく感じられる敦賀さんと社さんが、驚いた表情で私を見下ろしていた。
 
 

 
「もしかして……迷子かな?こんなとこに?」
社さんに膝を折って覗き込まれながらそう聞かれて、訳もわからないまま首を左右に振る。
揺れる視界の端にその羽根をキラキラひらひらとさせながら飛ぶ、例のあの妖精もどき。
その彼は言うたのだ。
『嬢ちゃん、あのおチビちゃんくらいまで巻き戻したったで!ちょーど良え時にさっきにぃちゃん来たやんか?』
……って、えーーー!?あのおチビちゃんって、もしかして??
「蓮さまぁ〜♡」と名前を呼んで、会えて嬉しいですわ!と顔一面の笑顔で敦賀さんの胸に飛び込んでいたマリアちゃんを、確かに……確かに思わず、あの敦賀セラピー受け放題を「いいなぁ〜」と零してしまったやもしれないけど!?
「迷子じゃないの?……名前は言えるかな?」
どうやら社さん達には、妖精もどきなその姿も声も見えも聞こえもしてないないらしくなんの反応もない。敦賀さんは何故か黙り込んだまま、私の顔を凝視してらっしゃる。
「もが…………ちょーこ」
素直に名乗りかけてしまって……けれど、咄嗟に偽名なんて出てこなくて、図らずも今もひらひらと目の前を飛ぶこの自体の元凶である見た目だけはメルヘンな蝶々から取って付けた名前のようなものを名乗る。
だって!?私、最上キョーコです。敦賀さんに抱きつき放題なマリアちゃんが羨ましいと思ってたら、さっき助けた妖精もどきがマリアちゃんくらいの年齢まで若返らせたみたいなんですよー。なんてご本人を前に言える訳がないじゃないっ!!
って、敦賀さん?なに私の髪を掴んでらっしゃるんですか?耳の上のサイドに、その大きな両手でふたつに分けるみたいな髪型にされてしまっている。
「最上、蝶子……ちゃん?もしかして、キョーコちゃんの妹とか?」
髪を掴んでいた手が肩へと動いて軽く引き寄せられた。反対の手に顎を掬われ、敦賀さんの真剣な黒い瞳が、何かを確かめるよに私の顔をまじまじと見つめている。
「いえ、最上さんに妹はいなかった筈です。けど…………最上さんの6歳の頃と瓜二つです。血縁がないなんて思えない。」
な、なんですか?その妙に具体的な年齢は??
あと……なんだか、その目ヂカラの強過ぎる目が、こ、こわいですぅぅぅ!?そんな若干逃げ腰な私に
『ほら、はよ抱っこしてって兄ちゃんに強請り?そない長いことその姿でおれへんから、存分にぎゅーってしてもらうんやで!……そんじゃ、嬢ちゃん。ほんまおーきにやったで〜!!』
キラキラふわふわと飛ぶコッテコテな関西弁を操る妖精もどきは、ご機嫌にそんな難解なミッションを言うだけ言ってヒラヒラと遠ざかって行く……って、ちょっと、待ってっ!?
「血縁がないと思えないって…………じゃぁ、隠し子とか?」
遠く小さく小さくなって行く光る蝶々なシルエットを目で追っていると、まさかそんななんてな?なんて乾いた笑いと共に社さんが呟くのが聞こえた。途端に、ぞわりと嫌な寒気が背中を走り抜ける。
「隠し子、だと…………父親は?」
ひぃぃぃぃ!?なんかお怒りでいらっしゃいます??
ぼそりと……恐ろしい声。
ち、ちち父親??お父さん??先生……に隠し子なんてとんだスキャンダラスだし。えーとえと!?
敦賀さんの地を這うみたいな低い声に、恐怖でパニックに陥った頭が必死に父親の検索を掛けて……あ!この前の父の日に日頃お世話になってるからと甚平を贈った相手が浮かぶ。
「…………(だるま屋のたい)しょー」
ぽろりと、唇からこぼれ落ちた音が引き金を弾いたかのように……大魔王が……
「ひっ!?……ふっ、ふぅぇぇぇーーー!!いやぁ、こ……こわいぃぃぃぃ」
ぼろぼろと流れ出した涙が頬っぺたを濡らす。
小さくなった身体に渦巻く感情を上手く制御出来ないみたいに、気が付けば声を上げて大泣きしてしまっていた。
「れ、蓮っ!!いくらなんでもこんな小さい子相手に闇の国の蓮さんはダメだっ!?」
「ご……ごめん。恐くないよ、大丈夫だよ?」
いきなりの号泣にあわあわと慌てた様子のおふたり。泣きじゃくる私をあやすみたいに抱き上げる敦賀さんの腕。
「……ほ、ほんとに?」
ヒックと喉を鳴らし、止まらない涙を拭いながら目の前の敦賀さんの顔を恐々と見上げる。
…………な、なんでそんな微妙に無表情??
暫くの間、硬直したように固まっていた敦賀さんは徐に口を開くと、傍に控える彼の敏腕なるマネージャーへと言ったのだ。
 
 
 
「…………社さん、俺、家庭を持ちます。」
 
 
 
だ、などと度肝を抜くようは事を。揺るがぬ決定事項かのごとくに、さらっと。
「はっ!?はいぃぃぃ??だ、誰と!?」
「もちろん、最上さんと。彼女以外の誰とも結婚するつもりはありませんから。最上さんとこの子を養って行くだけの甲斐性くらいあるつもりですし。大丈夫ですよ、例えあの不破との子どもだとしても……こんなにもかわいいんですよ、余裕で愛せます。ふたり目からは、俺との子どもを産んでもらえばいいんです。」
は?……けっこん?不破??って、しょーたろー??ふたり目??
目を白黒させている社さん。きっと私も同じような感じなんだろう。だって、敦賀さんが何を言ってるのかさっぱりと理解出来ないんだもの。
敦賀さんはそんな混乱する私へと、こてんと小首を傾げて……貴方、こんな幼な子さえ誑し込むおつもりなんですか??って勢いなかわいらしい子犬みたいなあの瞳で問うたのだ。
「蝶子ちゃんは、俺がパパだと嫌?」
やっぱり……この小さな身体ではその中に渦巻く感情の許容量も小さいのか……それとも、まだ恋や愛に絶望してない幸せなお嫁さんになるって夢を抱いていた子どもなままだったからなのか……
私の小さな手が敦賀さんのシャツをぎゅっと掴むのがわかった。
 
 

 
「……ゃなの。パパじゃ……結婚出来ないから、嫌。」
 
 
 
 
言葉にしたつもりはなかった微かな声が音となって耳に入った。愚かな願望にかぁっと頬が熱くなるのが解って、恥ずかして堪らなくなって目の前の敦賀さんの胸に逃げるみたいに顔を伏せる。
敦賀さんの匂い……あー、敦賀セラピーだ♡なんて、うっとりと浸っていたが………………気が付いた。
気が付いてしまった。
 
 

 
おかしい……いつの間にか、宙に浮かんでいた筈の私の足が床に着いている。
そろぉりと瞼を開いてみれば、目の前にあるアルマンディ様なジャケットとの間に見えたのは、見覚えのあり過ぎる茶色の前髪。
逃すつもりはないって教えるみたいに、ぎゅぅっと背中へ絡み付くようにまわされた腕。
耳もとで囁かれた低いぞくりと震えそうな甘い声。
 
 

 
 
「ちょうど良かったよ。さっきも話したけど、スケジュール変更が出てね……今日はもうオフになったんだ。ゆっくりじっくり話し合おうか……これからのふたりの人生設計について。」
 
 
 
 
 
✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄
 
 
 
辺境の地サイトな我が家の2周年的な企画っぽいもの「な2がなんでも!?」に、例の会議室じみた飴なぅにていただきましたリクエスト。
 

 
今回は、いつもむちゃぶりぱわはらもどきに遊んでいただいてるから捻じ曲げても許してくれるよね?な、皆様ご存知あの大企業社長☆


popipi様より
「キョコさん二人もしくは蓮さん二人もしくは2×2なお話でー!」
 
 
 な、こちら。
さぁ、この話のタイトルを今一度ご確認をば。
(*゚▽゚)ノ
キョコさんか蓮さん、もしくは両方ともに2人に増えるなこのリクエストのベクトルを真逆な1/2に……そう!キョコさんを半分な幼な子に縮めてしまおう!!な、ものと成り果てましたですよ。原型ないにもほどかあるねー!
こんなんでごめんねー。ァ,、'`( ꒪Д꒪),、'`'`,、



キョコさんの隠し子発覚!?なショックからの、幼な子誑し込んでこの子に父親が必要だと思うんだ的な所からも搦め捕ろうとしてたら、なんかよくわかんないけどまんまと飛び込んで来たんだからにはウキウキ捕獲な蓮くん。
きっとそんなおふたりの横では、やっしーが一拍遅れてから盛大にキャピキャピによによするかと。笑
 ヾノ。ÒㅅÓ)ノシ


因みに、幼女まで巻き戻す妖精もどきさんが関西弁なのは、キョコさんのメルヘンスイッチをズラさないと妖精さんとお友だちになって戯れる話で終わりそうだったからなだけでやんすのよ。
_(:3 」∠)_


↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


web拍手 by FC2