悪天候と其れに伴うスケジュール変更をやっとの思いで乗り越えて辿り着いた我が家、そこに愛しいキョーコが居てくれた。
蓮の胸に灯ったそんなほわりと顔がにやけるような喜びは……瞬く間に怒りへと変わった。




ソファーに広がる彼女本来の色である艶やかな黒髪。
ウィッグなのだろうか……蓮が東京を離れていた1週間ほどの間にキョーコと交わした数度の電話にも染め戻したなんてそんな話題も聞いてやいないし、記憶よりずっと長く綺麗に纏められて巻かれた髪型。
いつもの彼女らしくないバッチリと乗ったまるでパーティ仕様のようなメイクが寝顔まで匂い立つような色気を纏う大人びたものへと彩っている。
スレンダーでしなやかなキョーコの身体に纏われているのは、蓮が見たこともないワインレッドのドレス。白く滑らかなデコルテを飾る煌めくジュエリー。
総てが蓮の感情をささくれ立たせる。
だって、そうであろう?
売れっ子と呼べる芸能人ではあるが、自分の生活と学費に養成所の費用までをも賄っていた彼女。
その彼女が身に纏うにしては、ひと目にも高級であろうと見てとれる…………そして、何よりも
蓮がキョーコを飾り立てるならばこうするだろうと思えるような、キョーコに自分の色をそっと移すかのような密かな主張が垣間見えるような。
それらが、彼女へと想いを募らせる男からの贈り物だと蓮の勘が告げていた。
総てが気に障って気に食わなくて苛々として腹が立った。ドロドロとはらわたが燃えるような怒りが渦巻く。



ソファーの傍に膝をついてキョーコを覗き込んでいた蓮の、その重い恋心と執着故の強い感情。
まるでその蓮の怒りに呼応するみたいに、ソファーに横たわっていたキョーコがうぅんと小さく声を零しぐずるように身動きした後にパチリとその瞼を開く。
いつもなら……そんな蓮の負の感情に聡すぎるほどに敏感な反応を示すキョーコである。小動物みたいに目に見えてぶるぶると震え、べしゃりとまた土下座して身を伏せて怯えさせてしまう……と、そんな蓮の危惧のような予想を裏切って
パシパシと何度か睫毛を瞬かせたキョーコは
「…………久遠?」
と、そう確かにその紅茶色の瞳に蓮を映して呼んでみせた。未だ、キョーコへと告げた事のないこの国では呼ばれることのない彼本来の名前を。
驚きに硬直する蓮を置き去りに、ソファーから半身を起こしたキョーコはきょときょとと室内を見渡すと続けた。
「あれ?日本のお部屋?…年前に引っ越したのに?」
うまく聞き取れなかった数字。半分以上寝惚けたみたいな表情で、そんな訳の分からぬ事を。
キョーコの花びらみたいな唇からこぼれるのは、微かな……だが、間違いようもないアルコールの香り。
こてんと小首を傾げたキョーコの少しだけ寝乱れた前髪をすく手、その指。
それを眼にして、ゆらりと、衝撃に薄らぎ燻るようだった蓮の悋気が再びぐつぐつと蘇る。
「…………誰?」
地を這うような低く硬い声が問うた。
「まだ未成年の癖に、誰と酒なんて飲んで来た?」
蓮が想いを告げて愛を乞うてから、予想通りに盛大に疑って戸惑って……でも、これまで以上にどうしてくれようかってほど可愛らしく蓮の期待をこれでもかと煽るようだったキョーコが
「随分と綺麗にして……どこの男と楽しく呑んで来たの?」
頭の先からつま先までまるっと馬の骨なよってコーディネートされただろうキョーコ。
くるりと巻かれた髪も肌に煌めくアクセサリーもドレスも、何もかもが気に触れた。
そして、なによりもキョーコの左手。シンプルだが可愛らしいデザインのリングに光る小粒の、だけど確かに煌めく永遠の愛を誓うフローレスな輝石。
よりにもよって、薬指にだ。




まるで、彼女を縛りつける執着の鎖のようだ。





許せようものか……
なにもかも総て、キョーコから剥ぎ取ってしまいたい。
どろりと、蓮の中へ抑えも効かぬような凶暴思考が渦巻いて止まらない。





君が悪いんだよ?





その心が、すべてが欲しくて気が狂いそうな程の男のところへなんて
べったりと他の男の気配をまとわりつかせてやって来る、君が。






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(°Д°;≡°Д°;)


あいや?
たぶん、リクエスト下さった某さまも???な展開に。



| 壁 |д・)……大丈夫。猫木もどこ行こうとしてるんだか、さっぱりだから。←ちっとも大丈夫じゃない。



甘くなる気配のカケラもなく、これから前編での衝撃な台詞を言われちゃう踏んだり蹴ったり蓮くんですが……これ、大幅遅行な蓮誕でバレンタインな話の筈?あれ?
(・Θ・;)


↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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