彼女は、そう。まるで……雷のよう。
いつだって、君のその衝撃は俺の心臓のど真ん中をいとも容易くやすやすと貫いてみせるんだ。




***




それは、もうすっかりと月が天へと登りきった深い夜と言えるの時間だった。
ようやっと自宅のあるマンションの地下駐車場へと走らせた男は疲れきっていた。肉体的にはもちろん、心労的にも……より一歩踏み入れた表現を用いるならば、潤い不足で渇き切ってしまっていた。
その男、世に言うリア充しまくりなモテ男だろう抱かれたい男NO.1である筈な敦賀蓮……しかして、実際のところは恋愛初心者にしてよりにもよって頑なに愛を拒むラブミー部1号であるラスボスの称号名高い難易度高めな女子へと片想いを募らせている男ではあった。
彼は革張りのシートへと預けていた背中を離し、愛車からキーを抜き取るといつもより重く思える身体を車から外へと滑り落とした。
予想外の、八つ当たりのしようとない不運の積み重なりが重なりに重なった結果、神にさえ逆らうと心に決めた男が……縋るように求めた愛しい乙女との邂逅。ただ、最上さんに逢いたいなぁ……出来るなら俺へ心を許してくれる甘い彼女と……
などと、そんな蓮の願いとも言えぬ機微を、神とやらが聞き取ったが故かは知らないけれど……
この話は、そんな少し不思議な力の働いたらしき話である。





電光掲示が告げるフロアの階数がひとつひとつと数を重ねていくエレベーターの中。珍しくも、ぐたりと壁に体重を預け寄りかかる蓮。
彼は、過ぎたる前年の末の12月の25日に彼女へとその胸の内を告げたのだった。
お約束のように1番乗りで祝う愛する彼女のへの誕生日への贈り物の一輪の真紅の薔薇と共に告げた愛を乞う言葉と……想い人たる最上キョーコへと告げた『返事は今でなくてもいいから、どうか俺との未来を考えてくれないか?』そんな猶予を与えるような逃げ場を双方に残すかのような言葉。
愛を乞う蓮を消去し拒絶し消しるでもなく、寄り添うでも逃亡するでもないもどかしいような距離で戸惑いつつも、もじもじと頬を染める可愛らしい彼女。
蓮の中にいる頼るべきDr.学習能力たるかかりつけの脳内名医さえ『だってあんなにかわいい顔だし……もしかして脈ありなんじゃない?』なんて蓮の背中を蹴っ飛ばすような現状。
想いを告げてからの煮え切らぬ生殺しじみた日々もおよそ二ヶ月な蓮の誕生日を前に……キョーコは問うたのだ。うかうかと、蓮へと。
『誕生日に何か欲しいものとかありますか?』なんて罠にまんまと嵌るようらひと言を。
だから……だから、蓮は願ったのだ。
前々から詰まりに詰まったスケジュールで遠く離れた地にいることの決まっていたふたり。
だから、せめて願えるのならキョーコへと
君の居る家に帰りたいと、狡猾にも、戸惑うキョーコへとカードキーを握らせるなどしでかして。
2月の10日、撮影に出てどうしても逢えやしない蓮の誕生日のその夜、日付けの変わる1番に彼女からの電話と……蓮が東京へと帰る予定であった14日、その日に更に願えるのなら……
彼女が過去に配っていたような手作りのトリュフのひと粒でなくとも、ほんの一欠片、例え義理であろうともあの魅惑の黒褐色なチョコレートを蓮へひとかけらでもと。



なのに……
この狭い島国を襲った異例な寒波。
蓮のいた北の大地へも例外もなく降り注いだその寒冷は雪を伴い北の路線と空の交通網を見事に凍りつかせて麻痺させてみせて、例え神に愛された寵児と呼ばれる男であろうと天候には逆らえず……まんじりと2日間も雪で閉ざされたホテルに缶詰めにされてしまったのだった。
共に多忙を極める売れっ子と呼べる芸能人なふたり。10日の深夜に僅かに祝いの電話と日々のメールでの連絡は取れても、ろくに声も聞けないまま約束のバレンタインデーも過ぎて……
でも、礼儀正しく敬愛する先輩となにかと蓮を立ててくれているキョーコのこと、せめて冷蔵庫にチョコレートかテーブルにメモの一枚なりともキョーコの痕跡が残っているのではないかなんて飢えた男が思いながら電子ロックをスペアキーで開けた自宅の扉。
待ちうける筈の薄暗闇の蓮の予想を裏切ったリビングに仄かな灯り。
 夏の火に誘われるように夢見るように進んだ廊下を抜けたリビングのソファー。
そこに彼女はいた。


 


すやすやと愛らしい顔で眠る彼女。
礼儀正しい彼女らしくなくソファーのかたわらのラグの上に、乱雑にの脱ぎ落とされ華奢な踵を飾るリボンデザインが際立つたピンヒール。
愛しい彼女の伏せられた睫毛を飾るアイシャドウとマスカラ。淡い色の口紅とグロスに彩られた花びらのような唇から溢れた、酒精の混じる香り。







覗き込む蓮の気配に長い睫毛を瞬かせた彼女はその愛らしい唇から言うたのだ。







蓮の心を抉るようなひとことを



 


「んもぅっ!…………重過ぎです!ウザいですっ!!」








彼女の言葉は、いつだって俺の心臓を貫く雷のひとこと。








✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄



あいや!?
(°Д°;≡°Д°;)
誰も期待してくれやしてないだろうけど、某さまからのリクエストと蓮さんの誕生日とバレンタインを遅行させて一緒くたにしたよーな話になる筈が……?



(ஐ╹◡╹)ノ
まぁ、いいか。
どーせ猫木んとこにゃ甘い話なぞ求めていらっしゃる方なぞいないだろうしね!?←それもどうかと。



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


web拍手 by FC2