「はい、どうぞ。胃に優しい人参湯ですよ。」
城のサイズから考えれば小さなキッチン。よく使い込まれた感じのする鍋なんかがいくつか壁に吊るされているあたたかな雰囲気。
カコッと小さなテーブルの上にほこほこと湯気を立てるマグが置かれた。
「ありがとうね、キョーコちゃん。」
もう癖になったようにローブの上から胃の腑のあたりを擦りながら、苦笑を浮かべる。
なんかおもしろいよな……『魔王』に薬湯を作ってもらう『勇者』なんてさ。
この国に入ってすぐにある魔王城。
荘厳なその外見と裏腹にそこは閑散としていて……『門番』なんぞになるなんて言っていた蓮の姿もなく「お邪魔しまぁす」などと一応の声はかけて入り込んだ、その奥の玉座の間。
そこにいた女の子。
俺を見て、心底うんざりって顔して叫んだ。
「もーーー！！また『勇者』！？あの、セクハラフェロモン『勇者』だけでも充分にうっとおしいのに、更にまた追加なの！？」
「な、なんか本当にごめんね？」
………思わず謝っちゃったよ。
敵対する意思はないと、装備も出来ない宝剣を差し出して相対した『魔王』のキョーコちゃん。
お前、誰だよ！？とあんぐりと口を開けてしまうほどに、とろけてだらしないニヤけ顔の蓮。俺の持つ水晶球を見て、嫌ぁ～な表情を見せたけど「ここまであのド派手パレードと舞踏会に乗り込まれたくなけりゃ、諦めろ。」と、言い聞かせた。
そうやって頼み込んで滞在を許してもらった魔王城。
そこでの暮らしは楽しくも、胃の腑の痛むような受難の連続だった。
「ちょっと社さん！社さん、凍結の『魔法使い』なんでしょ！？あの、万年発情期ななんちゃって勇者もどきの頭、凍らせて冷やしてよ！あの男、私の不死蝶のキョーコさんをっ！！」
キーキーと苛立った声を上げながら『呪言使い』の雨宮さんが、ガリガリと凄い勢いで禍々しい感じのノートにペンを走らせている。
「あー、もう！！社さん！？あの勇者もどきにキョーコがベタベタして来た時に、心底羨ましい、そこ変われ的なあの目で見てくるのうっとおしいからやめろって言っておいてください！！」
こちらもプリプリと怒りながらキョーコちゃんの『従者』の琴南さんが苦情を述べる。
「社さん？蓮様にうちの城に入り込んだビーグルな犬の駆除は構いませんけど、庭の薔薇園には被害を出さないようにお気をつけいただきたいのですけど………」
ふわふわと愛らしく笑いながらマリアちゃんがそう言って俺を見上げている。
………万年発情期ってあの純真無垢なキョーコちゃんになにやらかした！？
キョーコちゃんの親友の琴南さんに無駄に嫉妬するくらいならあんな回りくどくてわかりにくい口説き方しないでちゃんと告白しなさい！あの初恋拗らせ恋愛音痴は！！
また来たのかあの、レイノって魔族は……また蓮のやつが闇の国のお方になるじゃないか！？
あぁ………胃が痛い。
「それで……あのですね？」
テーブルの向かいに座ったキョーコちゃんが香りの良い紅茶のマグを両手に、ちょっと困ったように眉を落として俺を見上げる。
「あの…もう、うち『門番』の求人してないとかそんなのはいいですから………蓮さん、夜の帝王で寝所で待ち伏せとか…ゆ……ゆ、湯殿に乱入とかはやめていただきたいんですけど………人の世界ではあんな破廉恥な事が常識なんですか？」
恥ずかしそうに真っ赤になった顔を伏せてそう聞いてくるキョーコちゃん。
………………れぇぇぇん？
お前、この前「社さん、世界を征服するにはどこの国から落としていくのが効率的ですかね？………あの、ローリィ国王が厄介かとは思うんですけど、そこはそれ愛を餌にどうにかするとして………」なんてそれこそ魔王みたいな事言ってやがったのに。
なんでそうなるのか聞き出してみれば「世界の半分と引き換えに私のものになれ……なんて言うくらいですから、いっそ世界の全てを差し出せばキョーコちゃんも俺のものになってくれるんじゃないかと……」だなんて明後日な方向に突っ走ってやがるから、もっと紳士に愛を告げて告白しろって忠告したばっかなのに！あいつはっ！！
ちょっと氷漬けにしてでもお説教しなきゃいけないのかも？
闇の国のあの蓮さんは、恐ろしいけど………
コクリとキョーコちゃんが淹れてくれた薬湯をキリキリ痛む胃の中へと飲み込む。
うん……お兄ちゃん、がんばるよ。
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「魔王なキョーコちゃんのお話が好きで。 魔王側近反応とか、勇者蓮が一人で来た経緯とか、帰ってきた蓮の覚醒(笑)に動揺しまくる社さんとか、やっぱり不憫な社さんが王様ローリィに「面白いから経過報告しろや」って言われてたりとか。」
より、ぽちぽちとしてみたものとなります……が、どうなんだろうね？コレ。
やしろさんなキリ番拍手リクなので社さん視点で不憫なヤッシーをば。笑
( ´艸｀)
