らいら、らい。
惑えや移ろえや
籠やの中での仮初めの仲。
謀り謀れ、わっちもぬしも
ららいゞ彼は誰、鳴かぬなら鳴かせましょうかや?



「もう……時がない。」
燃えるような強い瞳、白粉を塗った頬を滑る武骨な指先。
「国を、継がねばならない。」
落とされた低い声、紅をひいた爪が彩る手がきゅっと握り込まれて………けれど、艶やかで豊かな黒髪を結い上げ鼈甲の簪で飾られたキョーコの頭は左右へと振られる。
この籠から檻からキョーコを身請け助け出すと差し出される蓮の手、それを頑なに拒み続けるキョーコ。
揺れるキョーコの黒髪を飾る紅玉の玉櫛の飾りがシャラリとか細く鳴る音だけがふたりの間に響いていた。



「このありんす国は女の地獄。だから、わっちは鬼女でいい……」
肺を病み、細く細く白く青くなってしまった手。
鬼でいいと言っていた美緒姐。
でも………事切れるその時にその色を亡くした唇がつぶやいたのは、ひとりの男の名前。
「……嘉月
ゆるやかに眠る幼子のようなその顔。
姐太夫の心に想うひとが棲み着いている事を、鬼女のふりで強がりを言ってる事を、キョーコは知っていた。
だって、女は恋をして……恋に狂うからこそ鬼女になるのだから。




「許しておくんなんし……操を誓えと言うなら、ぬし様以外と床入りなどせぬ。髪切り放爪指切り、なんぞといたしやしょう………」
住む世界が違うのだ。
蓮の自分とは比ぶるもなく身位が高いことなど、キョーコにはすぐに知れたこと。
気品のある物腰やその身に纏う物の上質なことはもちろん、なにより宝田翁の引き合いである。
きっと、この吉原の花魁であるキョーコを身請けするだけの財もあるだろう。
「後生だからどうぞ捨て置いてくださんし…お側にいたら、わっちはきっと怨んでしまう。ぬし様を…奥方たちを……怨んで、ほんにか鬼となりんす……」
ぼろりと零れ落ちるキョーコの涙。
床以外で初めて見るその頬を濡らす涙に蓮の目は奪われてしまう。知らずのうちに伸びる蓮の腕。
ふたりを引き裂く明けの光はすぐそこまで来てしまっていた。






「お前に……キョーコに似合いの色の着物を仕立てたよ。」
にこやかにキラキラと笑う蓮が掲げるように拡げたのは、真白の打掛。
流れる観世水、流水や花々の上を舞う鶴などが見事に織り出された、白無垢。
もう逢うこともないのやもしれぬと思っていた男をきょとんと見上げ固まるキョーコ。
「俺に奥も側室もいない。キョーコ以外なの女なんかいらなぬのだから、キョーコが鬼になることなぞ、ない。」
ふわりとキョーコの纏う緋色の振袖の上に被せられた純白の上絹。
「うん、やっぱり似合う。籠から出たいと言ってくれたなら、違う籠に攫って移してしまおうと決めていたんだけど……恋に狂う鬼になるなんてかわいく泣いてくれるなんて……それなら、もう躊躇うことなどなにもありはしない。」
満足気に晴れやかに笑う蓮。
「国の君主としての勤めは、臣を束ねて民をよくおさめることはもちろん………次代の争いを産まぬために世継ぎを作ること。………だから、励もうぞ?キョーコ。」
身分が違うなどと今更な事を言い募るキョーコの声に被さる、ちんとんしゃんとなる廓の賑わい。




そんな中、キョーコは攫われ、ありんす国から緋色太夫が消えて失せたのだった。




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8200番目の拍手を叩いていただいたトモ様から暗くて切ないのもあり。と、言ってもらえちゃったので後編………とか思ってたんですけど、せっかくの8200(ハニーー)だし、ちょっとは甘くしとこう!としたら、こんな変な事になりんした。
なんかごめんやす。(´Д` )


最初は、キョコさんが蓮さんに指切り(小指の先を切り落として渡す)をしてお別れ……な、悲恋物にしようかとか思ってたんすよ。


いろいろおかしいですよ!パラレルですよ!!
白無垢が花嫁衣装になったのは、確か明治以降だった筈………だけど、色打掛よりも真っ白の方がなんか良かったんすもの!
( ´ ▽ ` )ノ←勝手。


↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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