「ねぇ?もう俺、ずいぶんと長くだいぶ耐えて我慢して待ってきたんだよ?だから、ねぇ?」


話が………話の流れが、内容が、結末が、うっとりするようなテノールの声が語るそのお話、日本語でおはなしになっていらっしゃるのに、全然全くちっともこれっぽっちも理解出来ませんっ!!





シックで落ち着いたインテリアの広い広いお部屋。窓の外にはロマンチックな夜景。
高級感溢れまくる大きなソファー。
だけど、そこに座っているのはたったふたりだけ。
ソファーの前のガラスのローテーブルの上には、ぬるくなってしまっているだろうコーヒーが入ったカップがふたつ。



『さっぱりした感じの日本食が食べたいな』
そんなお誘いをくれた偉大なる大先輩。
きっと、このひとが微笑んで誘えば断る女のひとなんていないだろうに………
『最上さんと食べたいんだよ?』
なんて思わせぶりな台詞を吐く形の良い唇。
すっかり使い慣れてしまったシステムキッチン。手の届かなかった下り棚に入っていたお鍋たちも、いつの間にか取り出しやすい位置にその居場所を変えていた。
身体だってあったまるし、お野菜だっていっぱい召し上がっていただける………なーんて考えてお鍋にした本日のディナー。
鶏団子に入れた生姜と大葉の香りがお気に召したのか珍しくおかわりなんてしてくれた、ほわんと幸せな夕食。
食休みの間に、撮影中のドラマの話やこの前出たバラエティー番組のミニコーナーの話、オファーが来ている映画の原作の小説を読んだ感想なんてとりとめのない話をしていた筈だった。
いつも通り。
いつも通りの敦賀さんとの時間。
敦賀さんがいれてくれたコーヒー。
ブラックのままの彼とミルクの入った私のカップ。
コトリと、敦賀さんがテーブルの上にそのカップを置くと私を見て言った。
まるで、明日のお天気の話をするかのように至極さらりと。



「ハリウッドからオファーを受けたんだ。」
出会った頃から若手俳優のトップに君臨し続けている敦賀さんの活躍は目覚ましく、今までだってギチギチの隙間ないスケジュールで世界を飛び回っていらっしゃった。
映像の本場で映画の都なハリウッドからのオファーが来たっておかしくはない………のに、金槌で頭を殴られたようなショックを受けたのは、敦賀さんが………おめでとうといってらっしゃいませと祝福の贈る私に
「アメリカへは行くんじゃなくって、帰るんだ。」
と告げた言葉。
「向こうで認められて胸を張れるようになるまで日本には戻らないつもり………だから」
アメリカに、帰る?日本には、戻らない?
………敦賀さんが、いなくなるの?
茫然とする私の手に敦賀さんの大きな手がそっと重ねられた。



「だから、結婚しよう?」



……………………………はぁ?



「本当は、こんな綺麗で魅力的なのにいつまでも無防備な君が心配で堪らないし離したくなんてない。出来ることなら無理矢理にでも攫って行きたいけど………我慢する。でも、せめて繋いでおきたいから、結婚しよう?」



な、な……んのお話でございましょう?



「新婚早々に単身赴任になっちゃうけど、公表と式は戻って来てから大々的にして新婚の蜜月を取り戻すつもりだから許して?」



お願い…ですから………ちょっと、待ってください。



「大丈夫だよ、指輪も必要書類も全部用意してあるからね?最上さんも二十歳になってるし、最上さんのお母さんとだるま屋さんと京都へは今度のオフに挨拶に行こう。俺の両親は全力大歓迎だから問題ないよ。」



待って……待って!



「待ってくださいっ!!」


やっと、私の口から叫ぶように飛び出した制止を願う嘆願。
敦賀さんがどうしたの?とでも言うように、こてんと小首を傾げて私を覗き込む。
その黒の含有量の多い瞳は、まるで私の方がおかしいのではないか?とさえ思えそうなほど、当たり前に真剣で。
こくりと私の喉が空気を飲むのが解る。
震える声で訴える。




「なんのお話なんですか?……………そもそも、敦賀さんと私は『お付き合い』もしてませんよね?」


そう。だって、私の一方通行な報われない絶対に秘密の片想い。
想いを告げたこともない。
気持ちがバレていたなら、こんなふうに私をそばに置いたりしないはずで………
だから、敦賀さんと私はただの先輩と後輩。
なのに………さらりと、さらりと敦賀さんは言う。



「うん、そうだね。だけど、結婚しよう?」




は、話が全く見えませんっ!!






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なんとなーくな思い付きをお仕事から帰る地下鉄の中で、勢いのみでそっきょーぽちぽち。


話を聞かない。待つ気もそんなない。そんな感じのいきなりどっきりプロポーズ。
そんな流れが書きたかった、ただそれだけのしろものにてごさいます。
(´Д` )


にゃはは。
続きとか、ないよー。たぶん。



↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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