「お優しい方………」


その秀麗なかんばせを歪ませ、諦めないとキョーコの居場所はここではないと言いながら………家臣に呼ばれ、この座敷牢から離れて行った蓮。
誰もいなくなった、物音ひとつない薄暗い牢の中でひとり座しているキョーコがぽつりと呟く。
キョーコは握りしめて身を示していた懐剣を袂にしまい、そっと背に隠したびいどろ瓶を膝に乗せる。
つるりとその滑らかな瓶を撫でる。さしゃり…と、瓶の中に詰まった蓮のくれた優しい星くずが揺れているのをキョーコは悲しげな顔で見つめていた。
蓮は今頃、軍議へと出ているのだろう。
敦賀の国の若君当主として。
そして、キョーコはその敵国『最上』の姫としてこの座敷牢に入っていた。
お手打ちになさってくだされば良いのに………そう胸の内で願って。



最上の国の長姫として産まれたキョーコ。しかし、父である最上の当主は『最上』の世嗣ぎとなる男児でないことを落胆しキョーコの顔を見に来ることさえ一度としてなく、キョーコを孕んだ事で側室に召し上げられキョーコを産んだ後にはそのまま顧みられる事のなかった母の冴菜はキョーコに冷淡に接していた。
そんなキョーコが生家を出されたのはまだ、齢5つにならんとする頃。一国の武家の娘として、隣国の不破へ送られた。
それは、世嗣ぎの若君の側室へとの縁組でさえなく。
まだ、母を偲んで泣く年頃、側仕えもなく乳母さえなくただひとり送りだされた人質の姫として。


ただ、一振りの懐剣。
それだけを………ようやっとキョーコをその目に映す母から投げるようにただ持たされて。



不破でのキョーコの扱いも最上と変わりばえなどなかった。
長姫ではあるが、身分もない側室の産んだ姫。
人質の姫としてのキョーコの意味など………ただ、最上の血として生きてさえいればよかっただけ。



そして、キョーコが齢7つになる年のはじめの冬、最上の正室が産んだ跡取りの男児……キョーコの弟君となる男の子と不破の姫との縁組みが決まった事によって、キョーコの人質としての意味さえ不破になくなった。
不破の国を出たキョーコは、最上からの使者に連れられ国元に戻る事さえなく山を越え関を越え敦賀へと送られた。
たらいまわし、ただ人質の姫として。



ひとりひっそりと送られた見知らぬ国。
その城の庭園の片隅で、ひっそりと人目を避け泣くキョーコは………そこで蓮と出会ったのだった。




✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄ฺ----✄



中編です………が、あと後編ひとつで終わるんだろうか?
(´Д` )←計画性ナッシング。


そして、もう一度。
薄い知識でそれっぽいことをしれっと書いちゃってますが、猫木の創造物にございます。パラレルと割り切って生あたたかい目で流してやってくださいまし。
((((;゚Д゚)))))))


↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


web拍手 by FC2