知るひとぞ知る事である。
そう、例えば彼女と彼をよく知りこの文章を読んでいる貴女なら。
その過酷とも言える生い立ちとまだ短い人生の大半を捧げた幼馴染に傷付けられた事によって彼女、最上キョーコはその心を護るために強固な恋愛拒絶の鉄壁の鎧を纏ってはいるが、その内面はとても素直で勝気、恥ずかしがり屋ではあるが愛情表現はストレートで深く………愛に飢えた少女である事を。



鶏の中で密かな恋心を抱いた先輩の想い人を知ったキョーコ。
彼女の辿り着いた結論、それはやっぱりどこかちょっと逸れたものではあった。
つまり、彼女の片思いの相手、敦賀蓮は女の趣味がかなり悪いのだろうと。
蓼食う虫も好き好きとか人は自分にないものに惹かれるとか言うじゃない?ほら、敦賀さんなら鏡さえあれば誰よりも美人さんが見放題な訳だし?きっと凄く趣味が悪いのよ。だから、私なんかが好きだって言うのだと。
そして、地獄まで連れて行くつもりの恋心、それを欲しいと言ってくれているなら………この恋を叶えてみたくて我慢ならなくなった。
故に、キョーコは恋を告げた。



蓮はキョーコからの告白をほぼ夢見心地で受け、交際をはじめた。
ぎちぎちに詰まった蓮のスケジュールとそこそこに売れてきているキョーコ、にやにや悪い笑いの目をしてしまっている有能なマネージャーの尽力があってもその逢瀬は大体が夜半、蓮のマンションでの短な時間のものになっていた。
恋愛を拒絶しなくなったキョーコは、それはもうとても素直でかわいらしかった。
いつも通りに蓮の杜撰な食習慣を叱りながら夕食を作ってくれた後、ぺそりとソファーに座る蓮に寄り添って座る。えへへーと頬を染め笑うキョーコがかわいらしくて抱き寄せた蓮の腕から逃げたりなどしない。
キョーコは、恥ずかしがりはしてもスキンシップが実は好きなのだ。ひとのぬくもりに飢えていたキョーコは、寧ろ積極的に寄り添いときおり蓮の頬に軽く唇で触れて「好き」と言葉にさえしてくれる。
それは、蓮にとってたまらない幸福と………どうしようもない悩みの禍根となっていた。



新生最上キョーコに蓮は、戸惑いを感じてしまっている。
唐突に降って沸いた禍福な出来事。頼れる安全な先輩、そんな上っ面を被って側に寄り添いあたためてキョーコの傷が癒えるその瞬間を虎視眈々と待ち構えていたのに、急にコロッと手中に落ちて来てしまったのだ。
百戦錬磨なルックスでありながら、遅蒔きで重篤なる初恋に掛からっていた蓮は、逃げる素振りを見せようものなら追いかけて追い詰めて逃げ道を塞いで捕まえてやる気で待ち構えてていた獲物………キョーコが自らのこのことやって来てぺとっと寄り添ってくれている幸福、それを失うのを恐れてしまった。
つまり、嫌われるのが恐くて手も出せない。いつか食べてしまおうと狙っていた獲物、そんなキョーコが自分の隣にで油断しきってリラックスしている状況で逆に手を出しあぐねてしまっていた。
更に、蓮にはキョーコにいつかは告げなければならない秘密もある。
自分の隠した過去と騙した正体………それと背負った罪も告げる事も出来ないまま、キョーコが望むだけのゆったりしたぎゅうっと抱き合い軽く触れるだけの、そこらの中高生の方がよっぽど進んでいるような幼い交際を続けてしまっていた。




 
話は冒頭に戻って、蓮は悩んでいた。
自宅のシャワールームにて………己の下.肢なんぞ覗き込んで。
正直にすべてを話す?結果、泣かれて怒られて……嫌われてしまったら………
見せないようにする?たぶん彼女は積極的に見ようとはしないだろう。……いや、でもあの子はいつも予測の付かない行動に出るから油断など出来やしない。最初から目隠しプレイなんてそんな事も出来ないし………
染める?さすがにミス・ウッズにも頼み難い………
剃る……のは、なんかそれも嫌だな。
なんて、そんなどう考えても辿り着く答えはひとつだろうという、そんななんとも情けない悩みを。
敦賀蓮、大人の余裕と色気をやたらと醸し出す彼も愛しいキョーコの前ではただの健全な欲を持った二十そこそこな若者である。




そんな彼の悩みが解消されるのは………まだしばらく先の話となった。




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ちゃっちゃっと話さないと時間が立てば立つほどハードルが高くなると思うのよ?
( ´ー`)

↓拍手ボタンの5555番のニアピン拍手をしていただきましたqwerty様からのリクエスト

「かわいくお付き合いを申し込むキョーコがみたいです。でもまだ受け入れられない蓮さんだけど、お願いに負けてお付き合いしちゃってください。」

から、ぽちぽちと書いてみた成れの果てにございます。
あれ?肝心の告白がさらっとしとる。
なんでこうなったんだ………?
ご、ごめんやさい。(´Д` )


↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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