彼女は聞いてしまったのだった。
ラブミー部なんて異色なセクションに所属し、事務所のバックアップもマネージャーさえ付かず自力で着々と難しい役をこなしその度に印象を変えて魅せる彼女、赤丸急上昇の注目株タレント兼女優、最上キョーコ。
キョーコは逃げ出してしまいたいと願ってしまっていた場所で、彼の秘密を知ってしまった。




それも遡ること3ヶ月ほど前のこととなる。
「この前は本当にいろいろとありがとう。君のお陰で役を降ろされずに演じきれたよ。」
キョーコの目の前にはそう言って優しく微笑む美貌の実力派俳優。そんな蓮には似付かわしくない人気の無い大道具小道具とり混ざり雑多に積まれた荷物置き場と化した一角に、ふたりは並んで腰掛けていた。
「なに、礼には及ばないよ。君の実力だろ、敦賀くん。」
そう言って片手を上げてみせるキョーコの心は暗い。こうしていると蓮の想い人の話を聞き出した恋愛相談を思い出してしまう。密かにひっそりとキョーコの胸で育てた恋心、自覚し肥大する想いに胸が痛い。
なのに蓮は告げる。
「君に気付かせてもらった恋を………いつか、手に入れたいと思えるようになったんだ。」
あぁ……闇を乗り越えたこのひとは、きっとすぐに想い人を捕まえるだろう。彼に口説かれて落ちない女の子なんていないのだから。キリキリと痛む胸と滲みそうになる涙。
だけど、蓮はそんな沈み込み話を半分くらいうわの空で聞き流すキョーコにはこれっぽっちも気付かないで、嬉しそうに想い人の事を語る。蓮が素直にさらけ出して恋愛相談など出来る相手など、今、隣に並ぶ者しかないのだから。
「それで昨日、彼女がうちで夕食を作ってくれたんだ。」
キョーコがビシッと固まる。おかしい……おかし過ぎる。
だって、昨日キョーコは、蓮の部屋で食事を作っていた。
ギッチギチのぎゅうぎゅうにスケジュールの埋まった売れっ子の蓮、自宅でゆっくりと過ごしたのなんて夜半になってからしかありえない。
私が帰った後に、その彼女さんはあの部屋を訪れて………あのキッチンで料理して、ふたりで食事をしたのだろうか?だけど、敦賀さんが………あの食育問題児の敦賀さんが夕食を2度、食べたの?
困惑したキョーコはたしなめるように言った。
もう部屋に来てくれる仲なんだね………じゃぁ、他の女の子を部屋に上げたり食事を作ってもらったりなんて誤解を招く事しない方が、いいよ。」
もうあの部屋に上げてもらう事もなくなる………そう思うと声まで震えてしまいそうになるのを必死で誤魔化して。
そんなキョーコの言葉に、蓮は不快そうに眉を顰めて怒りさえ滲ませて反論する。
「君は俺をどんな酷い男だと思ってるんだ?俺が自宅に招くのも、車の助手席に乗せる女の子も彼女ただひとりだよ。」
誤解も甚だしいとそうそっぽを向いてしまう。けれど、キョーコはもうそんな事を構ってはいられなかった。
隣に座る蓮の胸ポケットからマネージャーからの呼び出しな電子音が鳴り、名残惜しそうに蓮が去ってしまっても………その場を動く事も出来ないでいた。
キョーコの頭の中は今の聞いた話と過去に聞いた話。つまり、『4つ年下』『女子高生』『昨日、蓮の部屋で夕食を作った』『部屋に上げる女の子は彼女だけ』そして………『キョーコちゃん』そんなキーワードがぐるぐると目まぐるしく回っていて、疑問と辿り着いたその答え……それを否定する自分の声と、でも敦賀さんが今のキョーコな相手に嘘をつくとも思えずにもしかしてと期待に肯定する事実などが頭を渦巻いていっぱいだった。




しばしの間を置いて………キョーコは茹で上がったみたいに赤く赤く頬を染めて立ち上がった。
プキュゥゥと、そんな足音を立てながら。
その姿は、愛らしく笑う鶏の顔とずんぐりした体とコミカルな動きも相まって非常に微笑ましく思える景色であった。
とある決心を決め、きゅっと握りしめた手……白い羽に覆われたそれは手羽と呼んだ方が正しいのかもしれない。


鶏な着ぐるみの中でキョーコはちょっぴり生まれ変わったような新生、最上キョーコとも言えそうなそんな変化を遂げていた。




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お、終わりませんでした………
さらになんだか、リクエスト内容からはずれて行ってる気がいたします。
(´Д` )
後編はヘタレが書けたらいいなぁ~


さて、本日出張ー。
新幹線に蝉が乗ってて笑う。


↓拍手のキリ番っぽいのを叩いちゃった方は、なにやらリクエストしていただくと猫木が大喜利的にぽちぽちと何か書くやもしれませぬ。


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